背中
流石に幽霊とはいえ友人を家に上げているので、私は少し部屋の掃除をすることにして、その片手間でまた話を続けることになった。
色々と話を聞いたものの、肝心の「何故キノシタさんが現れたか」という点は相変わらず謎のままだ。
「なんでこんなことになったか、心当たりはない?」
「うーん、本当にないんだよ。なんとなく来たはいいけど、何をすべきか見当もつかなくて……。」
行き詰まった私達は、まずネットで怪談を探すことにした。
「やっぱり幽霊といえば恨みがあるタイプ……。」
「では、ないよね?私の場合。」
キノシタさんは実にのんきな顔をして言う。前も言ったがどう見ても彼女は呪いをかけるタイプではない。この感じで呪えるようならそれはそれで怖いが。
「じゃあ、何か未練がある?」
「……パッと思いつくものはないなあ、何せ3年眠ってたし。」
とりあえず未練の線で捜査を進めるべく、掃除をしながら高校時代の思い出の品を探し出すことにした。
「卒業アルバム、証書にクラスTシャツ……。」
「私が描いた絵も一応あるし、手紙とかノートも一部だけど残ってるね。」
「でもどれもピンとは来ないね……恨みも未練も。」
彼女はまだしれっと恨みの線も残しているようだった。
「ノートったって、私フルカワさんと違って勉強苦手だったしなあ。」
「私だって苦手な方だったけどね。」
「いや、でも今きちんと美大通えてるんでしょ?実技だけじゃなく勉強もできないと今はどこも入れないぞ~って脅されたじゃん!」
「ああ、ノムラの話なんて嘘だよ。大学を選り好みしなきゃ学力試験なんてゆるいもんだと……」
思い出話に花が咲き始めた頃だった。
「あれ、これってもしかして……。」
ノートをパラパラとめくっていると、そのページの一枚にキノシタさんの目が留まった。
彼女の目を引いたのは、数学のノートの端にあった私の絵だった。
それは彼女の背中を見ながら描いた、本当に粗末な落描きであった。
当時、私は彼女の後ろの席で、彼女の背中がいつも見える位置取りだった。この下手な絵は、先生の始めた退屈な授業に5分足らずで飽きて適当に筆を走らせた結果できたものだった。
「これだ!!」
彼女は今まで聞いた中で一番大きな声をあげた。
「フルカワさん!この絵じゃない?私の未練!」
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