「何で私がここに来たかなんだけどね……実は私もよく分かってないんだ。」

 キノシタさんは気まずそうにそう口にした。


 「え?分からないのに私のいる場所までわざわざ来たの?」

 「まあ、そうなるよね。」

 彼女の表情はふざけているようにもごまかしているようにも見えない。何より彼女がそんな嘘をわざわざ吐くような人でもないことは昔から知っている。彼女は話を続けた。


 「なんとなくだけど、私の家の周りも一通り散策し終わってどうしようか悩んでたらスーッと頭の中にフルカワさんの顔が浮かんだの。そうしたら、何故かフルカワさんに会いたくなってきて……と言うよりも、会わなきゃいけない気がしてきたの。

今思うとちょっとおかしな話だけど、でもそう感じたからには会いたいなと思ったの。」

 「そっか……じゃあ道は?どうやってここを突き止めたの?」

 「なんとなく来た。」

 「嘘でしょ!?」

 「うん。半分冗談。」

 こういう嘘は結構吐く性質だということを忘れていた。表情を見るにふざけている。


 「誰にも見られないわけだしさ、ちょっとフルカワさんのご実家の方にお邪魔して様子を窺ってきたの。そしたら今のフルカワさんの家らしき住所が書いてある紙が見つかってさ。後はなんとなく行けそうな道を探して来た。」

 「そこで、キノシタさんのことが見える私に会った、と。」

 「そういうことだね。」


 話が一段落し、ふと時計を見ると本来であれば大学に行く時間であった。彼女も何か察したらしく、

 「もしかして大学とか行く?だとしたらしばらく待ってるけど……」

とこちらを見てきた。

 私は少し悩んで、

「ううん、いいの。もう夏休みだから。」

と嘘を吐いておいた。

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