幽霊

 とりあえず家まで着き、キノシタさんを家に上げることにした。


 「おっじゃましまーす!」

 ……靴は脱ぐのか。幽霊なのに。いや、そもそも幽霊という括りで正しいのかも分かっていないが。

 一人暮らしに最低限の狭いスペースしかなかった上、人を上げることも家族以外では殆ど無かったために非常に散らかっていたが、

 「じゃあ、この辺に。」

 と言って彼女は物だらけの場所に難なく座った。

 どうやら私の物が潰されているような様子もないし、やはり霊体に近い存在なのだろう。


 キノシタさんは一通り私の住処を見渡した後、やおら息を吸って(厳密には吸う動作をして、だが)、

 「で、何から話そうか?」

 微笑みながら私に問いかけた。


 「えっと……まず、どうしてここに?」

 「私さ、最初この状態になって意識が戻り始めたのが大体1ヶ月前なんだよね。」

 「1ヶ月……大分長いけど、その間どう暮らしてたの?」

 「この体だとお腹も空かないし疲れも出ないんだよ、夜中に眠くはなるけど。」

 「やっぱり幽霊みたいなものか……」

 「そうみたいだね。でね、意識が戻った時にいたのは高校の辺りだった。まあ人に話しかけても無視されるし鏡に姿が映りもしないしご覧の通り物には触れないし……何より自分の過ごしてた時間とは違うっていうのはすぐに気付いたよ。

私が最初に向かったのは家だったんだけど、まあ大きく変わっていることもなかったから安心した。強いて言うなら仏壇の中に写真が一つ増えてたかな?」

 ギャグのつもりかどうか分からないが、割と笑えないのでやめてほしい。


 「ごめん、流石に不謹慎か。やめるね。」

 「……。」

 彼女のこういうところが私は高校時代から不思議であった。時折他人の心を見透かすようなことを言うのだ。


 「それでね、家の中を探し回ってはみたものの、お母さんにも姉ちゃんにも反応されない訳よ。」

 「なるほど……。」

 何となく状況は掴めてきたが、まだ分からないところがある。


 「それで、何で私がここに来たかなんだけどね……」

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