第210話

「カンパーイ!」

 今日は服部隼人初勝利記念の同期会。関東から火浦光成と福留雄二も駆け付けた。皆、20歳の誕生日を迎えたため酒類も解禁された。

「隼人、隼人よかったなあ~!」

「ははは!本当本当!」

 火浦は泣き上戸らしく、酒が入って泣き崩れている。反対に、福留は笑い上戸でその二人に挟まれた服部は大変そうだが嬉しそうだ。

「全く、良い馬をあげたわよね」

「そうだね!」

 霧生かなめはもう何度目かもわからない呆れのため息を吐いて能天気な友人、御蔵まきなを見る。気前がいいのは美徳なのだが。

「だからって、なんでもホイホイあげて良いもんじゃないでしょ」

「そうだね?」

「ホントにわかってる?」

「わかってるよ!」

 失礼な!と手をブンブンさせている。彼女にだって譲れないモノは一応あるのだが。

「にしても、楽しそうね。あっち」

「そうだね。あの2人は自分たちが早く出世しちゃったから」

「ある意味、あたしに対するまきなと同じなわけだ?」

「うん。本当にそうなんだと思う。去年の春頃の福留くん、本当にさみしそうだった」

 自分もさみしかった。せっかく、同じ栗東で近い厩舎に配属されたのにいつしか2人とは話もできない関係になっていた。男たちはそういう関係ではないにせよ、服部を誘いづらかっただろう。

「悪かったわよ。でも、これからは大丈夫そうね」

「うん。本当に良かった」

 本当に良かった。この言葉に尽きる。登録ミスや負傷降板。運命のいたずらに感謝するしかない。

「よし、私もお酒を飲もうかな!」

「えぇ?寮まで介抱するの嫌よ?」

「なんで私が介抱される前提なのさ!?」

 その後、まきなは辛うじて一人で歩いて帰れた夜は更けて行った。


 2月になって、先月6勝を挙げた服部はフィエルテに騎乗してきさらぎ賞へと駒を進めていた。

「じゅ、重賞・・・」

「まきなっていきなりこういうことするの、サドなのかしら?」

 隣にはきさらぎ賞には出ないが第9レースなどに乗鞍があるかなめ。初重賞に緊張しきりの同期を慮り、たまに突然、盛大に配慮が足りなくなると感じるところの友人を非難している。

「いいんだ霧生・・・俺が勝手に緊張してるだけだ」

「でもねえ、隼人。あの子は言わないと本当にわかんない子だから」

「俺はここを勝って、男になりたい」

 下を見ていた服部はぐっと前を見た。ここまで引き立ててもらったのだから、結果で応えなければ仕方ない。やってやる、とムチを握り締めた。

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