第205話

≪写真判定の結果、1着クラハドール号、2着コンカッセ号と判定いたしましたのでご案内します。なお、決勝写真はこれからビジョンに―――≫

「1着!1着だよ!」

「ユーショウ!コレニテカン!」

「う、うん」

 20分以上の長い写真判定の末に、ほんの少し、クラハドールの鼻先が出ていると裁定された。ただ、肝心のその写真が不鮮明だったらしく、色々な意見が飛び交ったらしい。

《しかし、裁定委員が裁いたんや。仕方ないわな》

 脚色だけなら最後までコンカッセだった。たった一瞬、抜かれた馬が輝きを取り戻した。それだけの話だと、裁定委員は結論したらしい。

 ワイワイと騒ぐクラハドール陣営を横目に、ユングフラウ・ドーベンは嘆息する。

『ごめんなさい、オーナー、調教師センセイ。必勝パターンでだめだったわ』

「世界的名手が最後の50mまで先頭に持っていってだめなら仕方ない。申し訳ありません。オーナー、完敗です」

「GⅠって、難しいのね・・・」

 オーナーのドレッド元田氏もトレードマークのドレッドヘアを力なく垂らしている。GⅠ初挑戦勝利の偉業は成らなかった。世界的名手を鞍上に迎えて、必勝態勢だった。

『おめでとう。やってくれたわね?』

 ユングフラウは喜びに沸く輪の中で、揉みくちゃにされる霧生かなめを眺めて呟いた。


 その1時間後には香港国際賽事第4レースが行われていた。1番人気はフランス凱旋門賞を制覇した余勢を駆るウェンリード。鞍上はジャンヌ・ルシェリットで国際GⅠ連勝を狙う。

『この極東でも、やることは変わらない』

 中団に構えて直線で抜け出し。それだけのことだが、それだけがとても難しいのが競馬だ。しかし、それを簡単にやってのけるのが彼女である。

≪ウェンリード、ウェンリード!凱旋門賞を制した実力はここ香港でも!≫

 強い馬を当たり前に勝たせる。この点において、今の世界でジャンヌ・ルシェリットを上回る存在は少ない。任された仕事を当たり前にこなして、自彼女は日本のGⅠレースの様子を見守る。

『負けた・・・』

 信じられなかった。本人の経歴は言うに及ばず、馬の戦績とて霧生かなめに与えられていたものは見劣りしていた。それでも、姉貴分と仰ぐユングフラウ・ドーベンは再び敗れたのだ。

『なんだろう、この・・・』

 やり切った、満足した表情をしている姉貴分に、ジャンヌは焦燥とも困惑とも思える感情を抱いていた。

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