第204話
≪まだ、上がって来る馬がおるな≫
元2000勝騎手の解説・岡田がぼそりと告げる。脚を無くしても必死にあがくジョン・スイスのキタウラモミジを交わして、後方から上がって来た。
≪ユングフラウ!ユングフラウ・ドーベンが黒い影となって突っ込んで来る!持ちタイムでメンバー上がり最速はこの馬、コンカッセ!≫
1番人気の意地を懸け、400mの地点から先頭目がけて突っ込んで来る。既に残り150m付近となった先頭2騎に接近して来た。脚色は圧倒的に優勢だ。
『ふふ、ふふふふ・・・!』
何やら怪しげな笑みを浮かべて迫り来るドイツでも文句なしの美人。迫力があり過ぎて、正直怖い。
「何なの!?美人のくせに気持ち悪い!」
「コワイ・・・」
それで怖じ気づくような鞍上2人でもなかったが、しかし気は取られる。並ぶことなく、さっと抜かせてしまう。
「このっ・・・!」
『ふふふっ!国際GⅠ制覇5ヵ国目!もらったわ!』
誰しもユングフラウ・ドーベンの勝利を確信した残り90m。しかしその確定しかけた未来をを真っ向から否定する人馬が2人と1頭。
「まだまだあっ!」
『ふふ、そうね?まだ!』
コンカッセの勢いに触発されたクラハドール。霧生かなめのアクションに応え、首を強く強く前に出して前傾姿勢で再び並んだ。
「長いね・・・」
「全くだわ」
阪神競馬場の電光掲示板には3着までの番号は素早く上がった。最終レースが待っているから、早くしなければならない。3着にはトルバドール、シヴァンシカ・セスが確保していた。
「カテナカッタ。ゴメン、マキナ」
「また、今度だね?」
「コンド」
シヴァンシカも、まきながオーナー側の人間だとさっき知ったらしい。態度が変わることはなかったが、真面目に謝っている。今度と言われて戸惑いの色を隠せない。
「ドバイもニアミスだったし、ジャパンカップからここまでも一緒に走れなかった。他所の国で見せ場を作るんだから、シカはすごい!今度は私も馬に乗って競いたいよ!」
「ワタシモ」
「また、来て欲しい。身許引き受けならおばあちゃんがやるから!」
「・・・ウン」
約束だよ、と御蔵まきなは右手小指を1本つき出す。
「まきな、それじゃわかんないでしょ。シカね、これは日本のおまじない。小指同士結んで、指切ったーってすると、願いが叶うとかなんとかって」
「ヤクソク、ネガイ」
そういうものか、とシヴァンシカは応え、指を結んで切る。
「ゆびきった!はい、これでシカは来年も来れないと閻魔さまに舌を抜かれます!」
え、と呆けるシヴァンシカ。かなめがため息混じりに説明する。
「シタヲ、ヌカレルノハコマルヨ?」
「なら絶対来てね?」
彼女らが姦しくしている様子を、御蔵勝子と霧生勝彦が眺めていた。2人の間には言わなくてもわかる、とでも言いたげな空気が流れている。
やがて、アナウンスが流れ始めた。
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