第203話
『ふぅん?やられたわね?』
『速い・・・』
第3コーナー手前辺りで最後方の海外勢2人も自分を取り巻くペースの異常に気付いた。前有利、後ろからでも脚が持たない状況になりつつある。もう投了にも見える状況だ。
『リリコ、動かないとダメそうよ?』
「何よこれ!?おじさまのバカ!」
1番人気、最有力馬コンカッセを抑えていた彼女もこの状況に一枚嚙んでいる共犯なのだが、そんなことは与り知らない。1番人気、2番人気が後ろにいて前方勢に圧力をかけつづけた結果が今なのだが。
『もう付き合ってられないわ。私は行くから、後はご自由にね』
シヴァンシカ・セスがトルバドールにムチをくれ、進出を開始する。元々外から回っていたので、真っ直ぐ外目を走って行く。
『さて、外か・・・今からでも追いかけないといけないけど』
前では慌てて莉里子が追い出している。ユングフラウ個人としてはそこまで急ぐものでもないと思っていた。
『勝負を急くのは、三流以下のすることだと思うの』
ここに至っても尚、彼女が選んだ相棒の、直線における破壊力へ置く信頼に揺らぐところは無い。
ジョン・スイスがキタウラモミジを追ってたどり着いた先団では、3頭が直線を前に横並びになっていた。頭一つ抜けたら相手は降る。その予感だけでせめぎ会う。
「ワイが前に出る!」
1頭がハナ先だけ前に出すと、隣の馬も負けじと前に出る。
「行かせないよ!」
もう200mはこんな調子なので、マンネリ感はあった。だが、各馬に決め手は無い。この状況で、霧生かなめには期待する可能性があった。
「来い・・・!」
スタンドからの歓声が一際、大きくなる。
「ここぉっ!」
これが最後だと言わんばかりに気合いを付けて半馬身前に出すと、馬群から出てきた馬との併せ馬に意識を切り替えさせた。
「シカ、遅いわよ!」
「ヤクソクシテナイ!」
そう、事前に示し会わせてはいなかった。ただ、来ると信じてこの1300mを堪えてきた。前が膠着するなら、後ろからいち早く来る馬に併せることが勝ち筋だと。
クラハドールの脚は止まりかけていたが、トルバドールに負けじと頑張り出す。
「グガギャギャギギギ!」
どこから出ているのかわからない音を出して武豊尊は後退。
「若いってすごい」
感嘆したジョン・スイスも着狙い、掲示板圏内に目標を切り替える。
《今年の阪神ジュベナイルフィリーズは女性騎手決戦!東洋のうら若き乙女同士で果たし合いだぁ!》
実況がそう声を上げたのが直線残り200mでのことだった。
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