第194話
JpnⅠ全日本2歳優駿が発走した。逃げたのは2頭。地元川崎で特別戦を勝ったシティオンシティと大井で重賞の平和賞を勝ったダイナマイトシング。共に南関が誇る快速馬だ。
「キモチイイ~!やっぱ競馬は逃げよ!」
シティオンシティの鞍上は郡快斗。南関では400勝も成し遂げた、若きレジェンドだ。
「と、飛ばすわね・・・」
正直言うとテンの速さにはそんなに自信が無い霧生かなめのビビッドバレンシア。今日は程々の出から8番手追走だ。
「この子はどこからでも差せるから」
かつて800mしかないコースを最後方から捲りきった実績もある中で、今日は1600mのレース。むしろ、彼らには延びた距離が敵になる。
「キリュー。君はここなのか?」
何だ?と横を向いたかなめの隣にはジョン・スイス。ハクレイライクンは過去2戦を追い込み勝ちしているため、後方待機だ。
「あ、ジョン・・・さん」
「さんは別に良いよ。その馬、地方なのに前に行かないのかい?」
「なんとでもなるんです!」
「そうか。しかし、ペースは緩いぞ?」
ダートマイルにしては前半3ハロンが37.7秒と、確かに緩いかも知れない。
「大して変わりませんよ」
「そうかなあ?」
800m通過は52秒に達した。かなり遅い。
「無理だね、ボクは行くよ。ノロノロしてたら舞踏会に遅れるからね!」
ハクレイライクンはグッと加速していく。捲りの形だが、これだけペースがゆったりしていては仕方がない。
しかし、かなめは動かなかった。そもそも前が固まっていて、あまり採れるルートが無い。
「直線手前まで無理かな、これ?」
「かーなーちゃーん!」
自陣営の馬を応援するはずが、思わず同期の苦戦に目が行く御蔵まきなである。
「こっちの馬は割と流れに乗っとる」
「ええ、冬夜は上手くやってます」
卯野冬夜騎乗、グリンディーゼルは3番手で上手く折り合っていた。ゆったりしたペースに逆らわず、内ラチにピッタリ張り付いて前を窺う。
「卯野君、ええぞお!」
中田総帥の懸念は鞍上卯野が人気馬への経験に欠けるところであった。同世代なら加賀登が優先され、重賞で3番人気以内の馬に乗ったのは過去3年、17鞍で1度きり。グリンディーゼルのJBC2歳優駿だけだ。その不安を払拭したのはまきなだろうと、彼は見ている。
「馬事において、まきなちゃんのお手を拝借するのとしないのと。3割は勝ち負けの確率が動くからな」
彼独自の感覚だが、「競馬の神様」にお詣りするよりもまきな大明神を招いた方が圧倒的な効果がある。
迷い無く良い位置を占めて進む卯野の姿を見て、その思いを一層、強くしていた。
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