第195話

 2番人気のジョン・スイスとハクレイライクンが上がって来た。もう残り500mまで来たレースが一気に動く。つられて上がって来た馬たちの中に先行馬が沈んでいく。

「すいすううううううう!」

「コーリさん!逃げばかりじゃ競馬をやる甲斐が無いよ!」

 郡快斗のシティオンシティも行き脚を無くしかけている。それでも地元馬の意地としてハクレイライクンに併せ、食らいつく。

「OK、相手してあげるよ!」

「てやんでええええええ!」

 川崎でデビューから3連勝した馬として、シティオンシティも負けられないのだ。2歳戦最高の舞台、意地でも勝つと郡が愛馬を𠮟咤しムチを打つ。

 残り300m付近。その後ろから、突如1頭の地方馬が牙を剥いた。黒鹿毛の馬体。

「行くべさああああ!」

 卯野冬夜がグリンディーゼルに1000m以上、我慢させてきたのはここで付け入るため。差し脚も鋭く上がって来た。馬体を併せていた前2頭を抜いて先頭に躍り出る。

「しまった・・・」

 他の馬が上がってくることは無い。スイスがそう判断していたところに、この奇襲気味の強襲だ。死んだふりからの逆転劇に卯野が勝利を確信していたところに、悪寒がした。


 コーナーに差し掛かる辺りで、さすがに馬群が崩れた。

「行くわよ!」

 霧生かなめがビビッドバレンシアに檄を飛ばす。普段使わないムチも、バシバシ使って上がっていく。11月初旬の初出走戦で見せた、園田での差し脚を再現して突っ走っていく。

「な、何だあ!?」

「もう負けてばっかじゃいられないのよ!ユングフラウを相手取るんだから!」

「何だよ!?」

 かなめからすれば、既に卯野は眼中に無い。退がって行く馬と併せてしまったスイスなど、どうでもいい相手だ。ゴールしか見えていない。

「俺だって、いい加減!」

 卯野もここで負けたらまた、次のチャンスが無くなる。負けられない。200m付近で1馬身差まで詰め、残り100mで半馬身差まで来た。グリンディーゼルの抵抗は激しく、脚色では遥かに勝るビビッドバレンシアでも一気に差し切るのは不可能。


 御蔵まきなはただただ興奮していた。自家生産馬のグリンディーゼルが先頭に立つと、その後ろから同期の霧生かなめが園田の馬で迫って来る。

「冬夜ぁー!踏ん張れ!突き放せええええ!」

「卯野君!もうちょっとや!頑張ってくれえ!」

 隣では門別陣営の2人が声を上げている。自分もその陣営のはずだが、同期のかなめを応援したい気持ちもある。そのため、静かにしているという選択肢になっていた。

「~~~~!」

 声にならない応援を1頭と1人に向けている。声にはできない、嬉しい悲鳴を上げていた。

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