第192話

 週が明けて12月、川崎競馬場。

「き、来ちゃった・・・!」

 川崎競馬場のGⅠ級競走、JpnⅠ全日本2歳優駿。霧生かなめは園田2歳チャンピオンとして出走するビビッドバレンシアの鞍上にいた。園田代表として何か爪痕を残したい。

「久しぶりだやなあ。リリックフランシアの時も来たけど、やっぱり南関は豪華や」

「ですよねえ。賞金もすごい」

 ダートでは2歳世代唯一のGⅠ級競走なので、1着賞金も兵庫ジュニアグランプリの6割増だ。

「勝ったら勝ったでケンタッキーダービーやからな!」

 このレース、「JAPAN ROAD TO THE KENTUCKY DERBY」なるシリーズに組み込まれている。世界中からダート世界一のケンタッキーダービーに強い馬を集める試みは、日本からも何度か条件達成馬を出している。

「ケンタッキーダービーですか・・・」

 かなめからは縁遠い世界だ。しかし、河野調教師はかなめの背中を叩いて鼓舞する。

「お前さんだって今週末にはあのユングフラウから中央GⅠの防衛戦やんけ!あの、まだ20勝もしてなかった姉ちゃんが!」

「まだ先月の話ですよね。金子さんからの連絡にはビビったな・・・」

 そう。全てはビビッドバレンシアとの出会いからだ。園田で結果を残したから乗鞍が集まって、阪神ジュベナイルフィリーズにも挑戦できる。

「頑張ろうね!」

 かなめはビビッドバレンシアの鼻先をトンと叩いた。


「あれが園田の無敗チャンピオンか」

 こちらは中央馬、ハクレイライクンの陣営。馬主は紗来代表の池田源治。

「騎手は最近、ダートで急に勝ちまくってる騎手だから、油断はできないです。馬はなぜ、中央に来なかったかのレベルだ」

 主戦騎手は新馬、1勝クラスのオキザリス賞で手綱を取ったジョン・スイス。重賞級は初めてだが、父に欧州の名馬モンスーン、母はダートでオープンまで行った良血。来年のUAEダービーまでは負けないつもりだ。

「頼むよ?スイス君。ここで負けたら頓挫も良いところだ」


 もう1つ、注目の陣営がある。

「いやあ、まきなちゃん。良い馬を売ってくれたわ!」

 日高の総帥、中田統は桜牧場で一目惚れしたグリンディーゼルを門別で走らせていた。4戦3勝。門別の重賞を2勝し、JBC2歳優駿も2着している。連対率100%は立派だ。

「うーん。でも、正直言うと、かなちゃんの馬には・・・」

「それは言うなや!走ってみんとわからん!」

 中田総帥も気にするところで、いかにも地方の三流血統も良いところのビビッドバレンシアがかなり良く見える。自身の相馬眼にはかなり自信があるため、それはもう、恐ろしい。

「騎手も冴えんしのお」

 主戦は門別の卯野冬夜。全国の若手トップ加賀登とは違い、不安が残る。

「卯野さんは良い騎手ですよ?」

 心配する総帥を他所に、まきなには異なる見解があるらしい。

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