第191話
その週の土日、シヴァンシカ・セスが合計3鞍だけだが騎乗した。阪神のコース、右回りの感じを掴んでもらわないといけない。
「ハンシンモ、イイコース!」
いつでもどこでも、かなり自由に振舞うシヴァンシカ。調整ルームから付きっ切りでお世話に回らざるを得なかった霧生かなめは大変だったと、後に漏らしている。
≪シヴァンシカ騎手が継続騎乗ですねー≫
≪ジャパンカップの逃げは中々、良かった。トルバドール、桜牧場さんの依頼らしいけど、あの陣営はそこら辺の感度がすごいわ≫
解説者も褒める中、シヴァンシカは第2レース未勝利戦の芝1600mを3着にまとめる。次の第7レース、1勝クラスでは斤量差を活かして逃げ切った。その中には、この2人がいて。
「まんまとやられたあ!」
「やるわね、インドの人・・・!」
かなめは逃げ馬に絡んで行ったが終盤、脚を無くして8着敗退。武豊莉里子は漁夫の利を狙って4,5番手と先行勢の後ろに付けたが、最後まで差せず3着に敗れた。
「ニホンハツショウリ!V!」
1勝クラスにもかかわらず、マスコミがインタビューを求めて来た。シヴァンシカはジャパンカップのパドックでのあやとりといい、日本語も聞く話すができるとあって、にわかに人気が高くなっている。
「ハーイ、マスコミの皆さん、こっちよー」
次のレースは空いていて暇だった武豊莉里子。シヴァンシカ目がけてごった返すマスコミを捌いた。マスコミ慣れしてないかなめではどうしようもないことだ。
インタビューが一段落して。
「アリガトウゴザイマス!」
「いいのよ。人気者は大変ねえ?」
「ワタシ、ニンキ?」
「日本人はねえ・・・毛色の違う優秀な人が大好きだから」
「ケイロ」
「あの、先輩。ありがとうございました・・・」
かなめも謝意を表す。余所余所しいのは、相手がランクの高すぎる大先輩だからだ。
「ああ、えっとね・・・霧生ちゃん。みやこステークスは良かったわ。次は阪神3歳よね?」
GⅠ阪神ジュベナイルフィリーズは旧称を阪神3歳ステークスと言う。
「はい、みやこの節はどうも・・・武豊先輩も出るんですよね?」
「ええ、ファンクションでね。アルテミスステークスも勝ったし、クラハドールには負けないかなって」
アルテミスステークスはGⅢ。阪神ジュベナイルフィリーズにつながる重賞でも、同距離かつ10月の競走ということで12月に備えやすいため、特に重視される。
「マキマキの代わりの子に、打倒ユングフラウ一番手。面白いやね」
「今回はお世話になりましたけど、負けません」
「いつまでも、若い子にやりたい放題させられないかなってね?」
「オオオ・・・」
能天気なシヴァンシカの目にも、燃え上がって色々なものをぶつけ合う2人の姿がくっきりと浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます