第185話
≪秋の府中で世界の頂上決戦!勝つのはどの馬だ!?≫
≪本当に、本当に見応えのあるジャパンカップです!≫
残り100m、10秒と無い一瞬の間に、何度も先頭が入れ替わった。1完歩ごとに、頭を上げ下げするタイミングで3頭の先頭が変わる。
『今度は、今度こそ!』
『そう何度もやらせはせん!』
『クッ!』
レースの感覚に鋭敏なユングフラウ・ドーベンには数秒先が見えてしまった。頭の上げ下げ、そのタイミングが図ったかのように。気合を込めてヴァルケが押し込んだ瞬間がゴール板だった。
どわああああああああ!
≪ジャパンカップ!決着!勝者はイギリス調教馬、カタールのハダ・カーン殿下が送り込んだ優駿!プリンスオブシリア!≫
≪最後の一瞬まで、主役が入れ代わり立ち代わり・・・いや、これはもうすごい・・・≫
禅定も白熱のレース内容に興奮しきりだ。我に返って、上位馬の寸評をし始める。
≪1着がプリンスオブシリアですね。鞍上ヴァルケのマジックです。出てきたのは一番最後ですが、測ったようなアタマ差での差し切りでした。2着は・・・審議出てますね≫
2着と3着はアスタロトとカイザープロイセンのどちらかだが、写真判定されているらしい。しかし、1着にはプリンスオブシリアの7番だ。立派に頭までが出ていると即断されていた。
≪4着、リキュール。日本から世界に討って出ていたチャレンジャーが意地ですね。5着にエンペラーズカップ。2年目福留、立派。6着に・・・マハトマ!これはまた、いやはや≫
ちょっとして、審議が終わったらしい。2着3着が発表される。
『ふぅん・・・まあ、仕方ないわね?』
『ほああ・・・』
ユングフラウは苦笑し、ジャンヌ・ルシェリットは感嘆の声を上げる。審議の文字が消えた電光掲示板には、彼女らの2着同着が発表されたからだ。
『不利のあったジャンヌを負かせられなかったけど、仕方ないわね?』
『不利なんて、あんなのは』
まだ何があったかは不明だが、ちゃんと気を配っていれば回避できたトラブル。忸怩たる思いだ。
『そうね・・・』
ユングフラウはジャンヌにハンカチを差し出した。
『泣くのは、もうちょっとお待ちなさい?』
『・・・はい』
去年はぎりぎり届いた。それだけに、悔しさは余りある。
「すっご・・・」
「福留くん、惜しい!」
京都競馬場で画面越しに観戦していた御蔵まきなと霧生かなめ。海外馬でワンツースリーと言う結果に、悔しいやら興奮するやら。彼女らは海外強豪のいないジャパンカップしか知らない世代だ。
「強い海外馬たちやったな。これは」
2005年にアルカセットなる優駿がジャパンカップをレコードタイムで制して以来、無かった海外馬によるジャパンカップ制覇が十数年ぶりに、2年連続だ。感慨深いものがある。
「まきなちゃん、牧場の馬は残念やったな」
「ええ・・・でも、無事に頑張ってくれました」
ゲート入りのトラブル以外に、目立ったトラブル無く、大過無く終わったことに安堵する。
「ワシら、来年に向けてやること多いな?まずはドバイが目標か!」
「そうですねー」
それでも、まずは阪神ジュベナイルフィリーズ。ユングフラウの挑戦を退ける。
「頼むよ、かなちゃん!」
「やってやるわ。雄二の敵討ちよ!」
世界の舞台で白熱した戦いを見せた同期。それを受け、かなめはちょっと、燃えていた。
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