第149話
京都競馬場の重賞、「みやこステークス」が発走した。まず先頭を取ったのは西藤竹次の黄色い帽子だ。奈良原浩二の緑の帽子も競っていく。ペースは決して遅くない。その後ろに武豊莉里子の白い帽子。多少、締まったペースだろうが、いつも前を窺える位置に構えるのは彼女の常のスタイルだ。
「なんかマキマキの代わりに良く知らない子がいるわね」
栗東所属の女性騎手同士だが、声をかけ辛い雰囲気の霧生かなめは莉里子以外の先輩たちからも敬遠されている。そのため、栗東の騎手相手ですら、人付き合いが希薄にも程があるのが霧生かなめだった。
そのかなめは馬群の中、10番手に控えている。馬が自分からこの位置を選んで動かなかったため、かなめも無理に前を狙おうとはしなかった。300mそこそこの直線では差しが決まりにくいが、仕方ない。
「おうおうおう!いい加減、何とか言ってみいや!」
隣の外側にはニシザワクィーン騎乗、武豊尊がかなめをどやす。聞こえていないわけでもないが、歓声と同じようなものとして気にしないでおく。
問題は、いつ前を捉まえるか?京都ダートコース300mちょっとの直線で差し切れるとは考えない方がいい。スタートから800m、向こう正面に差し掛かったことを考えると、そろそろ動いた方がいいタイミングだ。
「とは言え、外が邪魔・・・」
「ああ!?誰が邪魔じゃい!」
外にはぴったりとニシザワクィーン。ゲートを出た時からこの形なので仕方ない。しかし、この男、やっとオープンに上がったばかりの馬と重賞未勝利の騎手に何故マークしている形になっているのか?
「邪魔じゃないですか。武豊さんのおかげでこっちは全く動けないんですから?」
「言いよるの」
そう言うと、武豊は外に進路を取った。追い出して進出を開始する。
「これで動けるやろ!?」
外がいなくなったので、確かにかなめも馬を動かせる。出遅れたが、前進を開始する。レースも残り900m、折り返しだ。ダートコースにも芝ほどではないが『淀の坂』がある。他の馬はそれほど勢いつけずに上っていくそこを、武豊が猛烈に上がっていく。
「どかんかい!」
彼の馬はニシザワクィーンというだけあって、牝馬だ。金沢のJBCレディスクラシックに出るべき馬だったが、この暮れにある中京のダートGⅠ、チャンピオンズカップに出走するべく、前哨戦としてこの舞台を敢えて選んでいた。牝馬のために設けられたJpnⅠを見送ってまで、このレースに挑んできた想いがある。
「おじ様、もう来たの?」
「ここで勝負付けといたる!」
ダートGⅠ4勝、アドルベルンの武豊莉里子。暮れのGⅠ2戦に向けての叩き台とは言え、現役ダート王者として負けられない。先行馬2頭ももうそろそろお役御免となっている中、馬群から2頭がやって来た。
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