第132話

《芳川のヴァリエイトが大外強襲!このロスはどうでしょう!?》

《前3頭が広がってますからね、仕方ないけど…》

 園田重賞、楠賞は残り300m、先団3頭が最終コーナーを回っているところで芳川が追いついた。前3頭が広がった分、大外に進路をとるのでさらにロスして、今は2馬身後ろを走る。

「ぬら!芳川が来たべか!」

 門別の北条騎手。何度か門別で乗っている御蔵まきなとは旧知の仲だ。騎乗馬トムソンハーツは2番人気。

「てやんでえ!ここまで来て負けられるか!」

 南関東地区、船橋の里見騎手。1番人気クルリは船橋の古馬混合重賞で南関の強豪相手に3着の実績だ。

「外回した分、疲れたやろ!休んでればええ!」

「嫌ですよ!」

 芳川は応戦し、一番外、セイランの隣にヴァリエイトを付けた。200mちょっとの短い直線、4頭で追い込み合う。

《東西の未来を背負う4頭が競り合う!私、園田関係者としてはこう言いたい!がんばれセイラン!がんばれヴァリエイト!》

 きれいに揃ったハナ先から、1頭がクビ差抜け出した瞬間がゴールだった。


「と言うわけで、勝った。次は、君にも勝つから、首を洗ろうとけよ?」

 芳川はやはり帰りたそうにしているかなめを捕まえ、宣言していた。

「わかりましたよ。多分、明日も来ますから、その時にまたね?」

 明日はまだ決まっていないらしく、わからない。だが、可能性があるなら詰めるつもりだ。5勝まであと3勝、園田だけで稼ぎきりたい。

「ビビッドバレンシアとも、勝負を着けたい。ジュニアチャンピオンで」

 兵庫ジュニアチャンピオンは統一GⅡ、今はJpnⅡなる重賞の格式を持つ。園田、兵庫県競馬のみならず、西日本の地方公営競馬を代表する2歳馬の最強決定戦だ。

「アッパートライ出なきゃだめですよ?そこからジュニアチャンピオンっていうのはタイトですね?」

 アッパートライとは、園田における中央出走資格認定のためのレースだ。ポイント制の園田競馬では、ここを勝たないと重賞挑戦は難しい。大一番に間に合わせるためには間に1週ずつしか休みが取れない、地方でも厳しめなローテーションだ。

「アッパートライは出れば勝てるし、正直、あの馬なら真面目にジュニアチャンピオンも可能性がある」

 兵庫2冠馬セイランでも兵庫ジュニアチャンピオンは3着だが、それを越える馬。芳川は、そう感じていた。

「そんな馬が中央の騎手に渡るなんて、ついてないなあ…」

 また、人馬がお似合いなだけに、奪う気も起きない。羨ましいことだ。

「まあ、そう言われても、次勝てるか、保証も無いですし…」

 かなめは遠慮気味だが、しかし目が笑っていない。


「次があるなら、そこも勝つまでです」

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