第128話

 第1レース、グラインダーで挑んだC2級レースは2着に終わった。しかし、4番人気2着というのは立派な成績だ。しかも、この時の注目点は着順以上に、霧生かなめが採った戦法にある。

《4番人気グラインダー、霧生騎手!最後方につけました!》

《何と言うかまあ、思い切りましたねと言うか…》

 一番後ろにつけた彼らを、周りが終わった馬と見なした。1400mしかないコースの中、向こう正面。緩やかに曲がった直線から、急加速する。

《これは、思い切りましたね!》

 基本的に、地方競馬はどこもコースが短いが、園田のコースは特に短くなっており、1周が1000mちょっとしかない。直線も短く、実寸213mは日本の競馬場で一番短い。当然、3コーナー4コーナー共に小回り。つまり、追い込みは決まらない。

「初めての馬で、早々ゲートは決まらないからね…!」

 出遅れること前提に戦法を決めていた、完全な決め打ちだった。届くかどうか、この馬の脚を知らないが、タイミングとしては仕掛けどころを外してはいない。

《しかし、1馬身まで詰めたところでゴールです!それでも霧生騎手、初参戦初戦で大健闘!2着は立派!》

 園田に来るような馬の脚力では、最後方からはやはり届かないと理解したが、この騎乗は、海の者山の者とも知れぬ彼女の実力の証明にはなった。

「霧生騎手!うちの騎手が落ちて…乗ってくれませんか!?」

 第2レースで落馬があり、負傷降板した騎手の代わりにと4レース5レースの鞍上に招かれたのだ。

「悪いけど、運が向いてきたかも?」

 4レースはきちんとゲートを決めると、前の馬に積極的に競り合って、最後まで縺れる2着。5レースはテンの速い馬に当たり、逃げの形に持ち込んで、逃げ切った。


「河野さん、これはひょっとして…?」

「ひょっとするかもなあ…!」

 話題性を先行させて任せた期待馬の鞍上だが、案外、勝っている。3レースで連帯率が100%は非常に良い。

 7レースの初出走戦(園田における新馬戦)に向けて、かなめはビビッドバレンシアと面会していた。

「立派なのね…中央の新馬に劣らない」

「ここだけの話、兄弟の内で一番出来がええ言われとるさかい。リリックの2歳時より、確かにええな」

 園田で2歳から重賞を10個以上勝った姉より良いらしい。兄弟一族は全部、面倒見ていた河野調教師だから、本当なのだろう。

「青毛はカッコいいわね…」


 惚れ惚れとした目で鼻を撫でるかなめだった。

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