日高セレクトセール
第100話
まきなが中学生になってから、夏の定番になっているのが競り市への参加だ。と言っても、買い手ではない。
桜牧場でも年に何頭かは牡馬が生まれる。付いていた時点で売り払われる運命にある、彼らの最初の檜舞台。桜牧場にとって競り市とは、芦毛以外の馬を売るためにある。
今年の日高セレクションセールには、黒鹿毛の牡馬を1頭上場している。クロカゼという幼名の黒鹿毛馬は日高にも聞こえた素質馬で、父はゼンノロブロイ。また、母の父はダンシングブレーヴという本馬は桜牧場においてカガヤキのライバルかつ、カガヤキにとっては隠れ蓑。そんなクロカゼの名は鵡川地区随一だった。
「そんな馬を日高の競りにねぇ…」
「中田のおじ様に頼まれたから…」
「あのおっさんにか」
日高軽種馬組合で大きな力を持つ日高の総帥、中田統が御蔵家と懇意なのは周知の事実。しかし、紗来グループの競りに出せば一億以上の値を付けるだろう評判馬を買い手の資金力に劣る日高に出すとは。流石は芦毛の牝馬にこだわる芦毛狂いの御蔵だと思われていた。
「目玉がいれば日高の馬はもっと売れるからって」
「売れるって言ってもなあ…肝心のが1億以上から5千万そこそこに落ちるやろ…」
日高に向かう馬運車のハンドルを握る金子は呆れていた。
その頃、一台の外国車が日高を目指していた。広々とした国道を、アウトバーンよろしく、かっ飛ばしている。
「ここ、日本なんだけどなあ…」
『慶太郎、何か言って?』
「…なんでもないです」
「日本の、若駒!楽しみです!」
フランスはポーにいるはずの佐藤慶太郎とジャンヌ・ルシェリットがユングフラウ・ドーベンに連れ出されていた。なんでも、二人を乗せる馬を買いにいくのだという。なぜ日高に?という佐藤の質問に、ユングフラウは答えた。
『気になる人馬がいるの』
馬はともかく、人?と佐藤が聞き返すと、
『あなたも知ってるかもね?』
「はあ…?」
そりゃ日本だけど、日高には知り合いはいないんじゃないかなあ?と思う佐藤。一方、ジャンヌはまだ見ぬ日本の若い馬に思いを馳せていた。
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