第90話
そうしてやってきたのは桜花賞。阪神競馬場芝1600メートルの一戦だ。今年も、牝馬の大一番と言われるこのレースに狙いを絞った18頭がそろっている。
唐橋厩舎からはミラクルフォースが出走する。ホームとも言える阪神競馬場で、他の関西馬関東馬を迎え打つ。とはいえ、ミラクルフォース自身も阪神競馬場は1走しかしたことがないのだが。
しかし、まきなには阪神芝1600メートル戦での経験がそれなりにある。新馬戦など条件戦がほとんどだが、それも経験だ。GⅠ級競走と条件戦を引き比べることは一概にはできないが、その競馬場にはその競馬場なりの攻略法がある。
それを今、まきなは考えていた。もうすでにパドックではあったが。
「ウーン・・・」
「マキマキ、考えてるねえー?」
「あ、莉里子さん」
莉里子はファントムレディの主戦だ。後方一気の差し脚を持つ彼女には、莉里子の手がよく合っていた。
「でも、いくら考えたって、GⅠは簡単には取らせてあげないよーだ♪」
「わかってますよ、そんなこと・・・」
「本当に分かってるー?あ、あっちに怖いのがいるよ?」
「あっち?」
そのあっちの方を向くと、大和進がブーケトスガールを走らせていた。
「大和さんじゃないですか。確か、同期でしたよね?そんなに怖いんですか?」
「いや、ヤマは言葉が汚いだけの軟弱ものだよ。でも、馬は強いよ。なんせ、ロードカナロア産駒の一番馬とも言われるほどだからね」
そう、ブーケトスガールはその父ロードカナロア。母はスカーレット一族のファントムブーケという超良血だ。
「やっぱり、競馬は血統だよ。血筋さえ良ければだいたい勝ち上がれるからね」
「でも、そういう馬って体弱かったり、気性荒かったりしません?」
「あー、マキマキんとこはアウトブリード派だったっけ」
基本的に、競走馬は近親配合(インブリード)で改良を重ねてきた。桜牧場のように、芦毛でさえあれば何でも掛け合わせるのとは違い、なるべく近い親等の馬同士を掛け合わせることで強くなると言われている。血の遠い馬同士を掛け合わせるのはアウトブリードと呼ばれ、あまり用いられることがない。その辺は、理科、生物の教科書の方が詳しい。
「でも、私は馬って丈夫さが命だと思うんです。莉里子さんの馬も、割とインブリード・・・」
「うーん、そのへんは好みやねぇ。サンデー系やキングマンボ系は外すのが難しいし」
返し馬もそろそろ終わり、いよいよ桜花賞発走の時刻が迫ってきた。
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