第89話

 4月に入ると、クラシック本戦の開幕だ。第一戦目は桜花賞。ここには、唐橋厩舎からミラクルフォースが出走する。もちろん、鞍上は御蔵まきなだ。GⅢ、重賞であるアルテミスステークス勝ちのあるミラクルフォースは、新馬戦で阪神1800メートルを勝っている。長い距離になっても対応できそうだということで、桜花賞のみならず牝馬3冠すべてで有力と見られていた。

 他に有力馬はGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズ、GⅢであるが桜花賞の重要なトライアルレースたるチューリップ賞の勝ち馬ブーケトスガール。阪神GⅠレースのレコードホルダーたる彼女は、阪神マイルなら敵なしでは、と見られている。

 マイルは距離が短いが、オークスに向けての有力馬としてはコーラルリーフ。中山2000メートルのGⅠホープフルステークスを快勝した牝馬で、スタミナ豊富。スピードも逃げ切り勝ちを収めていることから能力が高い。GⅢのクイーンカップも勝っている。

 チューリップ賞と並ぶトライアルのGⅡ・フィリーズレビュー勝ち馬はファントムレディ。こちらは後方一気の差し脚を身上とした馬で、前走では最後方から13頭をまとめて抜き去っている。

 他には、桜花賞トライアル・オープンクラスのアネモネステークスを勝ったクラウチ、牝馬ながら共同通信杯を2着したリリーマルレーンなどが続く。

 その中でも、ミラクルフォースは2番手評価。桜花賞の圧倒的1番人気はやはりブーケトスガールである。日本競馬の花形、27歳の大和進が主戦を務める。去年は小倉や中京など、裏開催に回っていた彼だが、3年前にダービー初制覇を果たすなど、実力は折り紙付きだった。ローカルで力を蓄え、再び中央開催へ戻ってきたのだ。現在、4月時点でなんと50勝。久々となる日本人騎手の150勝も見えてきている。


 さて、そんな大和だが、ブーケトスガールと出会う前、相当焦れていた。だいぶ後輩の佐藤がダービーを史上最年少勝利、1年目の新人は3人も30勝を越えてきた。中央に自分の席はなくなるのでは・・・そんな懸念を吹き飛ばしたのが、ブーケトスガールでの阪神ジュベナイルフィリーズ勝利だった。2歳マイルのレコードタイムを叩き出したこの一戦は評価が高い。


「桜花賞を取って、今までの遅れを取り戻す」


 復権に向け、思いは日増しに強くなっていた。

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