第91話

 桜花賞のゲートが開く。ポンと飛び出したのは、ミラクルフォースだ。スタートには自信のあるまきなが、出ムチを叩いてハナに立つ。果敢にコーラルリーフが並びかけて最初のコーナーに入っていく。コーラルリーフの鞍上は火浦光成、前回は降ろされたGⅠ取りの機会だけあり、熱く燃えている。

「御蔵!譲れ!」

「いや!譲らない!」

 火浦がハナを主張するたびに、まきながスッとクビ差前に出る。結果的に、火浦が根負けする形になるかと思われたが、折れることはしない。レースのペースを上げ続ける結果となった。

 ファントムレディの莉里子は、その様子に呆れていた。

「あの子たち、何してんのよ・・・」

「何しとるも何も、競り合っとんじゃろうが」

 ブーケトスガールの大和も一緒に、中団のやや後ろを追走している。この二騎からすればいつもの定位置と言えたが、それでもペースが速い現状、ベストとは言い切れなかった。

「ちょっと速いわよ!?どうするの、これ!」

「速いも何も、ちょうどええ加減じゃろが」

 大和はブーケトスガールに一鞭をくれ、進出を開始した。その様は、騎馬武者が槍を掲げて突撃していくようにも見えた。


『火浦、コーラルリーフが前に出る!』

 火浦のコーラルリーフがスタートから1000m余り続いた競り合いを制した。まきなが手綱を引くまでもなくミラクルフォースの脚色は鈍り、1馬身、2馬身と後退していく。

「ミラ・・・!」

 第4コーナーを待たずに後退し始めた愛馬を必死に励ますも、ミラクルフォースは応えられない。そう、このペースは、

「お前には速かったんじゃ、御蔵ぁ!」

「わっ、大和さん!?」

 直線入り口にして大きくポジションを上げてきた大和とブーケトスガール。12頭、15馬身を一気に飲み込んできた。

「いくら、GⅠ勝ちがあろうが!ルーキーにクラシックをやれるかい!」

「むぅぅ・・・!」

 そんなこと!と言いたいまきなであるが、ミラクルフォースの脚はすでに上がっており、動けない。

「あとはお前だけじゃあ、火浦ぁ!」


「大和さん・・・?」

 火浦も、何馬身か後ろから迫りくる脅威を背中でひしひしと感じていた。脚色は圧倒的にブーケトスガールが優勢だ。

「私もいるわよ!?」

 莉里子が遅ればせながらファントムレディを追い、迫ってくる。


 阪神競馬場のクラシック第一弾は桜花賞。のこり、300m。

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