第86話
《佐藤が行く!ヴァルケが追う!ジャンヌがまとめて差し切るのか!?》
残り、150メートル。勝負はまだまだもつれている。佐藤のエルトゥールルが止まらない。ジャミトンも相当な末脚を繰り出しているが、先にトップスピードに乗られた分の差を詰められない。ジャンヌのオックスキャスナットは・・・
『ご苦労様、オックス・・・』
勝負をあきらめて、3着を取る戦術に切り替えていた。ジャミトンとのクビ差が1馬身差、2馬身差と開いていく。
《佐藤か!?ヴァルケか!東西の名手の一騎打ちだああああ!》
果たして、佐藤のエルトゥールルはクビ差届かなかった。南アフリカ馬のジャミトン。GⅠ5勝目は世界に冠たる国際GⅠ、ドバイワールドカップである。
ジャミトンはこの一戦を最後に、引退が発表された。ウサム殿下によると、今年6歳のジャミトン、昨年の日本と今年のドバイでのわずかな着差に衰えを感じていたのだという。種付けシーズンには間に合わないが、このまま衰えながら使うよりもこの時点での引退を選んだというわけだ。つまり、
「負けっぱなしじゃん、俺・・・」
「ワタシハ、イチド、カチマシタ」
「勝ち逃げされたあ・・・!」
日仏の若きジョッキーたちは偉大な馬の背中を追うことになった。
ジャミトン。父モンスーン、母グルーシー(アラジ)。世界を股にかけて走り、イギリス、フランス、ドバイ、日本でのGⅠ勝利を達成。6歳春までの戦績は16戦7勝、2着3回。若き日から世界のトップレベルでしのぎを削り、晩年は王者として君臨した、そんな競走馬人生だった。
ドバイのバニル・モハメド殿下の計らいで、特別なセレモニーが急遽、催されることとなった。ジャミトンにとっての最後のウイニングランである。
『なあ、ジャミトン、お前の背中にいるときは、いつも楽しかったよ。お前と直線を追い込むのは、いつもわくわくした。もう、お前のような馬には出会えないかもな、俺は・・・』
感慨深げに向こう正面で愛馬に語りかけながら、手綱を取るヴァルケ。その目にはうっすらと、涙が光っていた。
そして、スタンド前に戻ってきた人馬を、スタンディングオベーションで出迎えるのはメイダンに詰めかけた3万人余りの観客たちだった。これまでの活躍を祝して、これからの活躍を祈って。万雷の拍手は、当分鳴りやまなかった。
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