第85話
『ジャポネ?ダービージョッキー?』
『ああ、そうさ!佐藤慶太郎、覚えとくんだな!』
佐藤はそう言うと、マハトマを交わして前に出る。そこはちょうど、メイダン競馬場の第4コーナー。
《日本の騎手です!佐藤!トルコの馬、日土友好の証エルトゥールル号の名を冠した牝馬に跨って!メイダン競馬場、ドバイワールドカップの最終コーナーを先頭で駆け抜けています!》
マハトマも負けじと食い下がるが、前半飛ばしたツケだ。二の脚が利かない。しかし、インドの王者としての意地か、そのままずるずる下がることはしない。先に悲鳴を上げたのはまきなのデッドリーボーイだった。ずるずると位置を下げだしている。それを交わして上がっていったのが、
「ジャミトン!」
そう、フランスが誇る名手ヴァルケ・ローランの駆るジャミトンだった。それを追ってジャンヌとアメリカ馬のオックスキャスナットが上がっていく。ジャミトンに睨みつけられ、マハトマもついに戦意を喪失し、後退し始めた。
直線残り300メートル、勝負は3頭に絞られた。
「ああー!デッドリーボーイ!頑張ってくれ、まきなちゃん!」
「まきなちゃん、もう少しいてこましたれ!」
「マキマキ!あきらめちゃだめよ!ジャンヌはそのまま頑張りなさい!」
日本陣営から様々な声が飛んでいる。満を持して送り出した馬が敗戦の淵にいるとあっては、声を絞り出すしかない。一方、カタール陣営は、
『ジャンヌに・・・ユングフラウ!』
ウサム殿下が明らかに顔色を悪くしていた。それもそのはず、ジャンヌには去年、日本で同着の煮え湯を飲まされているし、ユングフラウ・ドーベンはドイツやトルコで何年も角逐してきた相手だ。それに迫られている。気が気でないのだ。
そのユングフラウは、呑気にグレープジュースの入ったグラスを傾けていた。
『四角先頭、とは恐れ入ったわ』
『しかしお嬢様、よろしかったのですか?エルトゥールルは・・・』
『いいのよ。あの子にはたまたまその名を与えた。たまたま、いい日本人騎手がいただけだけど。もしこのレースを勝ったら、あの子は日本とトルコ競馬界の友好の証として、高く売れるでしょうね。おじさまの牧場も助かるわ』
エルトゥールルは元はと言えばユングフラウの父の知人が経営する牧場で生まれた馬だった。ドイツの馬産事情は厳しい。その知人の牧場も、エルトゥールルの世代で馬産を止めてしまうところだったが、ユングフラウがどうしてもと言って買い取った一頭がエルトゥールル。その代金で今も馬産を細々とつないでいる。
『負けてもらうわけにはいかないわ。せっかくの機会だもの』
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