第84話

 ドバイミーティング最終戦、ドバイワールドカップが発走した。全部で8頭の少頭数だが、それだけに各馬強そうだ。まず、抜けてきたのは、インドの馬。

《マハトマ、マハトマだ!600キロの巨体を揺らしてマハトマが前に出る!》

 全く詳細が不明だったインド馬マハトマ。その巨体をガンガン前へと押し上げていくカルロス・フェルナンデス。自然、他の馬も影響されて、前へ前へと引っ張られていく。まきなのデッドリーボーイも2番手につけたところを引っ張られ、かなりのハイペースを強いられている。

 前5頭とは15馬身差。かなり離れた位置に、後方3頭が横並びになっている。ジャミトン、オックスキャスナット、エルトゥールルだ。

『何だあの逃げは』

『5ハロンで1分切るんじゃないでしょうか?』

 つまり、メチャクチャ飛ばしているということだ。呑気に構えているように見えるヴァルケとジャンヌだが、内心穏やかではない。これだけ差をつけられては、差し損ねる可能性だってある。

 そんな中で、佐藤は悠然としていた。手綱は緩くなっているし、気持ちが入ってないようにさえ見える。そんな様子を見て、ジャンヌもたまりかねたのか、

「慶太郎サン!チョットハ、ヤルキヲ、ミセテクダサイ!」

 佐藤は答えない。しかし、エルトゥールル自身のペースが上がってきたように感じられる。気がつけば、エルトゥールルはジャンヌらの2馬身先を行っていた。


「やられた・・・!」

 まきなは、先頭集団の速いペースに巻き込まれ、かといって馬を下げることもできず、一人苦しんでいた。元々、デッドリーボーイは自分で決めたペースを作って逃げる馬だ。先頭を走ることに慣れていても、前に巨漢馬を置き、奔流のようなペースに身を任せることは得意ではない。

「マハトマ、こんな逃げをして無事で済むの・・・?」

 しかし、マハトマはこれが答えだと言わんばかりに、ペースを釣り上げていく。カルロスは、こういう時こそ非常に積極果敢だ。自分の馬にも、他の馬にも楽はさせない。すると、後方勢からしびれを切らした馬が一頭。

「先輩!」

 トルコのエルトゥールルだ。馬郡最後方にいたはずの馬。そこからどうやってここまで?聞く暇もなかった。あっという間にまきなのデッドリーボーイも抜いて、マハトマに絡みに行く。

『ヘイ、カルロス!』

『ダレダ、オマエハ!?』

 後ろから自分を脅かすものがあるとすれば、ヴァルケかジャンヌか、はたまた、まきなだろうと高を括っていたカルロスは、真横に接近してきた男を驚きの目で見つめる。


『俺は・・・日本のダービージョッキーだ!』

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