第81話
ドバイターフには、アメリカの5歳馬ナッツナッツココナッツが出走している。アメリカ所属だが、主にカナダで活躍してきた馬だ。GⅠウッドバインマイルなど6勝を挙げており、マイルでは強いともっぱらの評判だった。
『ワッハッハ!私がフィッシャー大佐だ!』
ダン・フィッシャー大佐。デトロイトの自動車メーカー社長で、軍でもらった名誉称号を日常から使っている人だ。
『カーネル、ゴキゲンイイデスネ』
『おお、カルロスくん!』
そう、ナッツナッツココナッツには、カルロス・フェルナンデスが騎乗する。逃げを身上とする当馬に、ペース判断バツグンなカルロスは相性がいい。事実、ナッツナッツココナッツのGⅠ勝利2つは彼の手腕によるものだ。
『いつもみたいな勝利、期待しているよ?君には期待しているんだ!』
『ガ、ガンバリマス!』
そう、頑張るしかない。負けてはいられない。カルロスは、自分を世界で認めてもらうには、勝ち続けるしかないと思っている。
そうして始まったドバイターフ。やはり、ナッツナッツココナッツが逃げている。2番手にはシャーピングがいる。ジャンヌのエキドナエレジーは8番手を進む。紗来の代表が日高の総帥に問いかける。
「どう見ますか、総帥?」
「・・・まあ、お前さんの馬は悪ぅない。前がちょっとハイペースになりかけとるんは、アルゼンチンの小僧のせいやな」
「シャーピングの位置でも、速すぎるくらいです」
シャーピング騎乗のジョンはペース判断には定評があるが、それ以上にポジションが重要と判断しての好位追走だろう。自分が乗ってないのだからそれ以上考えてもしょうがないと思うまきなである。
「でも、それならカルロスのナッツは苦しくなってくる。どこまでこのペースを維持するのでしょうか?」
答えは、直線に入るまでずっと。そして直線に入ってからはさらに上げていく、だった。ナッツナッツココナッツが捉まらない。各馬、必死に脚を伸ばすが、射程圏内に入らないまま直線残り300メートル。ここで、いったん息を入れるため下がったシャーピングが再び詰めてきた。
『カルロス!逃がさないぞ!』
『ヤッテミロ!』
ジョン・スイスが必死に追う。じわじわと差が縮まっていくが、この時ばかりはカルロスも手綱を短く持ち、追っている。しかし、惜しいことにナッツナッツココナッツはブエノスアイレスではない。
≪残り100メートル!ついにシャーピングが捉えた!ナッツナッツ、必死の抵抗!≫
脚色は、シャーピングに優勢だった。
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