第80話

 ドバイゴールデンシャヒーンはアメリカ・キング厩舎のドラムセットが優勝。ブリーダーズカップ・スプリントを連破した馬だ。アメリカ勢としては留飲を下げた格好だが、騎乗していなかったジャンヌの心中、穏やかではなかった。

 とはいえ、契約がある。次はドバイターフ、日本陣営の紗来馬、エキドナエレジーに騎乗だ。先ほどまでの敵陣営だが、そこは見習いとはいえプロを志す者として、笑顔で顔合わせを行った。


「オマタセ、シマシタ、ジャンヌ・ルシェリットです・・・」

「ジャンヌさん、さっきはお疲れ様!」

 興奮冷めやらぬといった表情で出迎えたのは、シャーピングの馬主、御蔵まきなである。

「4着は立派でしたな!まあ、私の馬は1着でしたから、今度は勝たせて御覧に入れますぞ!ワハハ!」

「フン、よう言いよるわ。こないだもまきなちゃんのシャーピングに負けとるくせに」

 仲が相変わらずなのは紗来の代表に日高の総帥。

「総帥・・・仲が悪いのをジャンヌさんに向けちゃだめですよ!?」

「まあ、そうは言うけどなあ、まきなちゃん・・・」

 まきなはもはや、存在自体が日本陣営全体の潤滑油となっている。そう年も変わらないのに、とジャンヌはこんなことでうじうじしている自分が小さく思え、余計に自己嫌悪に襲われた。と、そんなところにジャンヌは手を握られた。

 ギュッ・・・とした感触は、ほかの誰でもない、目の前の少女、まきなだ。

「そんな顔じゃあ、勝てるものも勝てませんよ!」

 せっかくジャンヌさん美人なんだから、笑った方がいろいろ寄ってきます!と、まきなはウィンクする。

「お、オネ・・・」

「おね?」

 お姉さまが二人に増えちゃった・・・と、顔を真っ赤にするジャンヌと、何のことかわからず、首をひねるまきな。

 ジャンヌの顔色が普通に戻ったころ、表情も自信にあふれたものに戻っていた。

「マキナ・・・サン」

「はい!」

 負けませんよ、とこぶしを突き出すジャンヌに、こちらこそ!と応えるまきな。それを微笑まし気に見守るのは周りの大人たちであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る