第79話
さて、日本の19歳、2年目の御蔵まきなが圧倒的なパフォーマンスで勝利を収めたアルクォズスプリント、この勝利はドバイに集った各陣営を騒がせた。
ジャミトン擁するウサム殿下のカタール陣営。御蔵まきなに一方ならぬ想いを持つヴァルケ・ローランは、この少女の圧逃劇を、何とも言えぬ表情で見つめていた。
『正、ひかり。君たちの娘は、とんでもない才能を持っていたな』
一人、祝杯を挙げるかのようにグレープフルーツジュースを呷る。その様子を見てウサム殿下は尋ねた。
『フム、ローラン君?あの可愛らしい騎手は知り合いかな?』
『ああ、失礼。本人が言うには、友人の娘だということです。確かに、非常に似ています』
『御蔵か。日本にそのような牧場があったかもしれんな。確か、シャーピングのオーナーブリーダーだったか?』
『ええ、殿下。しかし、困りましたな』
『何かな?』
『ワールドカップですよ。ジャミトンに、とんでもない強敵が出現しました』
ジャンヌがドーバーランで出走したのを見守ったイギリス陣営は、イギリスで短距離王を名乗るドーバーランが4着敗退したのを受けて、混乱していた。なんせ、勝利したのはまさか、極東の世代限定戦で勝ち負けに絡んだことがある程度の3歳馬だ。それに10馬身差つけられての敗退。さすがに、ギリアム卿も狼狽を隠せない。
『あの時、感じた底知れなさは、これだったのか!?』
『sir、落ち着きましょう』
『これが落ち着いていられるかね!?』
ギリアム卿をなだめるのはフランス・ポーの小室圭調教師だ。
『あれが御蔵まきな・・・噂には聞いていましたが素晴らしい騎手です。こちらも、立て直すために騎手を万全の状態で送り出す必要がある。違いますか、キング調教師?』
キングは黒人、アフリカ系アメリカ人として初めてアメリカでクラシックを勝った実力派だ。きわめて沈着冷静、温厚で知られる。動揺こそしていたが、小室師に言われて、すぐさま表情を切り替えた。
『そうですな。sir、まずは落ち着いて。暫く、teaを飲んでいてください。我々が出迎えます』
おどおどと戻ってきたジャンヌを出迎えたのは、米仏の気鋭の調教師2人だった。
『あの、Formateurのお二人・・・サー・ギリアムは・・・?』
『ああ、さすがに負けすぎでうろたえてんだよ、紅茶飲んでら』
『ジャンヌ、君は気にする必要がない。馬の勢いが違ったのだ』
『やはり、私が負けすぎたから・・・?』
『そうじゃあねえよ、キング先生も言ったろ?馬が良すぎたよ』
『ウム、騎手の腕の問題ではない。絶対能力の違いを見せつけられただけだ』
小室師は、喜びに沸く日本陣営の方を見て言った。
『まあ、今は喜ばせておけばいいんだ。そのうち、奴ら吠え面かくからな』
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