第77話

 昼食休憩の間に、カルロス・フェルナンデスは色んなことを話した。混血とはいえ上流階級の家に生まれたが、今は一家離散して、天涯孤独だということ。子供独りで生きていくために、もともと得意だった乗馬の腕を生かして、草競馬で披露していたら、今の厩舎に拾われたこと。調教師への感謝。馬への感謝。乗馬を教えたのは祖父だということ。そして、今まで勝ってきたレース。年は24歳だ。

 まきなは相槌を返しているだけだったが、カルロスの方はヒートアップしている。まきなの方も、シンパシーを感じたらしい。ちょっと質問をしてみる。

『ミスターは、今は裕福ではないですか。家族を探そうとされたことは?』

『ナイヨ』

『亡くなったと決まっているわけではないでしょう?』

 まきなも、自分の身の上を話し始めた。両親は早くに亡くなったこと。今の身寄りは祖母のみだということ。馬を愛していること。

 昼食休憩時間が終わるころ、2人はかなり打ち解けていた。

『ミクラ、ボクノコト、カルロスッテ、ヨンデホシイ』

『私も、まきなでいいですよ。キャリアも年も下ですから』

 赤くなりながら言うカルロスと、平然と返すまきなだった。


 休憩室を挟んで、次はアルクォズスプリント。芝1000メートル直線のGⅠだ。欧米では芝1000メートル直線コースは一般的だが、日本では新潟競馬場1場にしか存在しない。だいたい、直線コースはカーブ等でスピードが殺される余地がないため、ハイペースになりやすい。差し脚末脚の勝負ではなく、純粋なスピードの勝負になる。

 ミスターオースチンはそういう面で有利だった。スピード豊かなサクラバクシンオーを母の父に持っており、父にはロードカナロアというから、がちがちのスプリント血統だった。気性はおっとりしており、操作性は高い。追いまくらないと身が入らないズブさだが、瞬発力そのものは高く、エンジンが入った瞬間から動ける。

「まきな、オースチン!勝つんやで!GⅠ取って凱旋しよ!」

「もう、弥刀さん、無茶言わんの・・・」

 しかし、そうは言いながらも、まきなの目はかなり鋭い。馬も自身も初めての舞台、距離、馬に至ってはGⅠまでも初挑戦だが狙っていた。


「あなたのお父さんは、ドバイにはこれなかったからね。ここは頑張るんよ」

 オースチンの父、ロードカナロアはこの後行われるダート1200のGⅠドバイゴールデンシャヒーンに5歳時、招待を受けていたが見送ったという経歴を持つ。

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