第74話
あっという間にやってきた、ドバイワールドカップデー。広義にはドバイミーティングとも呼ばれるドバイ国際重賞競走の締めくくりを担う日である。ドバイワールドカップをメインに、アラブGⅠも含め5つものGⅠが並ぶ、競馬の祭典。
御蔵まきな率いる(と国内では報道されていた)日本勢は、クラシック前哨戦がだいたい済んだ2週間前に現地入りし、トレーニングに励んでいた。WCデー出走の日本馬は以下のとおりである。
UAEダービー(ダ1900)出走、ファントマット。
アルクォズスプリント(芝1000直線)出走、ミスターオースチン。
ドバイターフ(芝1800)出走、シャーピング、エキドナエレジー。
ドバイシーマクラシック(芝2400)出走、リキュール、エンペラーズカップ。
ドバイワールドカップ(ダ2000)出走、デッドリーボーイ。
そう、まきなの所有馬、主戦馬が日本馬出走予定の5つの競走に出る。この状況を演出し、マスコミに売りつけ、まきなを『日本の総大将』に祭り上げた男が日本チームの監督格として入り込んでいた。そう。
「わっはっは!紗来!世界の紗来を築き上げる時が来たのだ!」
ミスターオースチンとデッドリーボーイの馬主、紗来の代表。池田源治だ。日本競馬、特に自身の勢力拡大の好機と見抜いた彼は、今も昔も金に糸目をつけない。ファントマットの馬主に話を通し、何かと目立つ武豊尊(ヨークシャーズがWCに出走予定だった)の陣営を説得し、それぞれ全くの別路線に向かわせた。チームまきなとも言える陣容を作ったのは彼だった。ファントマットの馬主は、
「フン!まきなちゃんを神輿扱いしおって!」
日高の総帥、中田統。まきな第一の中田総帥だが、『日本競馬のさらなる発展のため特に優秀な女性騎手、御蔵まきなを前面に押し出し、世界の目を向けさせよう。彼女の活躍で天皇賞(春)、宝塚記念に外国馬を5頭呼べるかもしれない』とまで言われては、乗るしかなかった。彼は日本競馬の発展を心から願う人だ。クラシック春の2冠、『ダービー』を諦めてまで、ファントマットを馬場の異なるUAEダービーに出走させたのも、まきなに乗鞍を与えるためだった。
しかし、子供のころから可愛がってきた少女が重荷を背負わされ、マスコミのオモチャにされるのを、是ともできない。ドバイの晴れた空の下、総帥は悶々とした日を過ごした。
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