第73話

 佐藤が百合の道を眺めてうらぶれているころ、日本ではまきなが快進撃を続けていた。唐橋厩舎の3歳馬たちと、クラシック戦線を戦っていたのだ。グラシアスは牝馬ながら牡牝混合重賞のきさらぎ賞を勝ち、ジューンアテンザは牝馬限定とはいえ重賞クイーンカップを2着に来ている。ミラクルフォースも含め、牝馬勢の出走賞金は十分に貯まっていた。牡馬勢もまた、ミスターオースチンはNHKマイルカップへの出走賞金は足りているし、ファントマットはGⅢ京成杯を4着にまとめて、500万条件戦はなみずき賞で勝ち上がり、牡馬クラシック戦・皐月賞への出走を決めていた。

 これだけの活躍を買われ、ついにまきなはGⅠデビューを果たす。2月4週、東京のダートGⅠ・フェブラリーステークスである。


≪さあ、シンデレラガール・御蔵まきながデッドリーボーイを導いて第4コーナーを曲がった!先頭との差は4馬身ほど!≫

 まきなは、8番人気のデッドリーボーイに騎乗していた。7歳馬で、重賞3勝の成績を誇る。だが、ピークはその重賞を3連勝した5歳時であったとみられ、人気薄で見られていた。だが、

≪デッドリーボーイ、前に出た!≫

 そのデッドリーボーイはあろうことか1番人気の逃げ馬を残り300メートルほどで差したのである。これはよもや、という空気が流れたが、

「さーせーるーかぁー!」

 般若の武豊尊が馬群を割って現れた。彼は3番人気ヨークシャーズに騎乗している。

「ワイだって、やったことない!GⅠ初騎乗勝利!これを小娘なんぞにやらせては男がすたる!」

 ムムッ!とまきなの眉が動いたが、追う手は止まらない。しかし、ヨークシャーズは詰めてくる。そして、詰まり切って、わずかにクビ差出たところがゴールだった。そう、デッドリーボーイは2着に敗れたのだ。

≪関西の泰斗!武豊尊!お前にはまだ早い!と言わんばかりの差し切り勝ち!今年初めてのGⅠは、武豊尊とヨークシャーズ!≫


「ちくしょー!負けたよお!」

 まきながジョッキを干して嘆く。中身はリンゴジュースだ。

「でも、2着だろ。ドバイあるぜ?」

「そうだな、ドバイだ」

 そう、フェブラリーステークスといえば、ドバイ国際競走の招待審査に引っかかってくるレースだ。そこで好走したということは、お声がかかるかもしれない。

「うーん、ドバイかあ・・・」

 満更でもなさそうなまきな。

「案外、慶太郎さんと戦ったりしてな?」

「な、ジャンヌちゃんともな」

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