第75話

 日本馬以外に有力なのは、やはりこの馬。カタール・ウサム殿下所有のジャミトンだろう。ドバイシーマクラシック連覇を狙っているかと思われたが、ドバイワールドカップに出走を決めていた。鞍上・ヴァルケ曰く、

『殿下は、一度勝ったレースにはあんまり興味を示されないようだ』

 ということで、あまり得意距離というわけでもないが、強力なライバルであることに変わりなかった。

 他には、ジャンヌが乗るイギリス貴族ギリアム卿所有馬のドーバーランが、アルクォズスプリントに出走予定だ。5歳牡馬で、ここまで10戦して5勝と比較的キャリアの浅い馬であるが、芝の1000メートル直線では連対率(2着以内率)100%を挙げており、スプリント戦のエキスパート、欧州短距離界の王者として君臨する。ジャンヌとのコンビでは、イギリスGⅠ・スプリントカップステークスを勝っている。

 ジャンヌは同じくギリアム卿の所有馬、アメリカで走っているオックスキャスナットにも騎乗予定。こちらはブックメーカーの予想で、ドバイワールドカップの前売り1番人気だ。去年、アメリカ3冠競走を皆勤し、最終戦のGⅠベルモントステークスで勝ち鞍がある。GⅠはその1勝のみの4歳馬だが、さすがにダートの本場で走るだけあって人気だった。

 また、ジャンヌは日本チームのエキドナエレジーにも乗鞍がある。ドバイターフの出走馬で、日本人漫画家の萬屋氏の所有馬だ。まきな所有のジョン騎乗馬シャーピングとまた走ることになる。『今度はまきなさんには負けない』とふんす!と気合を入れる。

 佐藤は世界的に有名なオーナーブリーダーのユングフラウ・ドーベンに騎乗依頼を受けていることが大々的に報じられていた。シーマクラシックとワールドカップに騎乗予定。

 シーマクラシックに出走のヴィッテルスホーフェンは、ドイチェスダービーを勝った馬。凱旋門賞にも2年連続で出走しており、3着の実績を持つ。5歳馬で、戦績的に見るものはないがドーベングループが自信をもって送り出した一頭だ。

 ワールドカップでメンバー唯一のトルコ馬となるエルトゥールル。牝馬だが、去年トルコダービーに当たるガジ杯を制している。その後はトルコ国内のダートを転戦しながら国際GⅡに相当の芝2400メートル戦、ボスポラスカップを勝ち、欧州馬に席巻されているトルコ競馬界の留飲を下げるのに一役買っている。

 両馬とも、ユングフラウがわざわざ佐藤に騎乗依頼を出したことから、様々な憶測が飛び交っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る