第45話

 さて、美浦に滞在するまきなは、同窓生と旧交を温めた結果、絶好調だった。多くはない乗鞍から、1か月間、27騎乗機会で10勝を挙げている。勝率4割に近い成績を収めていたのである。その間、福留が3勝で合計20勝。まきなは都合27勝で、新人リーディング2位に躍り出た。


「御蔵に負けた・・・御蔵に・・・」

「文句あるん!?」

「いや、無いけどさあ?」

 明らかにショックを隠せない福留に、まきなが食ってかかる。

「福留も大変だな」

 そう言う現在32勝の火浦は減量が減り、勝ち星が少し伸び悩み始めていた。

「なんで俺が毎回ここの支払いなんだ・・・?」

「いいじゃないですか!ダービーの賞金、まだまだ残ってるんでしょ?」

「残ってるけどさあ!」

 週1回、高級ステーキをおごらされている佐藤であった。

「オールカマーはどうするの、福留くん?」

「うーん、逃げるか控えるか・・・おれ、新人じゃないか。強豪馬も集まってくるしさ」

「そこで考え込むのがお前の悪いところだ」

「そうだよなあ・・・」

「いいんだよ、俺たちゃ、ペーペーだ。一生懸命やらないと、乗せてもらえねえ」

「おお、火浦くんが長い言葉を!」

「光成・・・」

「お前な、一生ぺーぺーでいいのかよ?甘いこと言ってんじゃねえ、勝つんだ、いいか?」

「わ、わかったよ」

「火浦くん、相当心配してるんだね」

「別に」

 火浦は、寡黙である。多くを語るのはかっこわるいから、という彼なりの美学らしい。その火浦が、できる限りの言葉を尽くしている。

「もー、照れちゃって!」

 うりうり、と肘で小突くまきなであった。


ドドドドドドド!

≪さあ、オールカマーもそろそろ佳境!サイドエンゲージ、佐藤が逃げる!≫

 サイドエンゲージは夏の間に小倉記念を勝ち、立派に重賞馬となっていた。その重賞馬が中山の急坂をものともせず、逃げて逃げて逃げまくる。それを中団から急襲したのは・・・

「慶太郎さん!逃がしませんよ!」

「雄二か!来いよ!」

 福留雄二と7歳牝馬パラソルレディだった。6番人気のオッズは11倍。サイドエンゲージは3番人気だ。

≪パラソルレディ!半馬身抜け出した!福留、必死に追っている!初重賞は取れるのか!?≫

「させるかよ!まだお前にゃ早い!」

「くっ!」

 サイドエンゲージは気鋭の4歳馬だ。ゆっくりと衰退の時期にあるパラソルレディとは能力が違った。抜け出しはしたが、再び差し返され・・・

≪オールカマーはサイドエンゲージ!2年目佐藤!天皇賞、ジャパンカップへの準備はばっちりだ!≫

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