第44話

 『先輩、ご飯に連れて行ってください!』と、御蔵まきなに言われて断れる男はいまい。多少驚きつつも、多少の色気を出した。以前、とあるオーナーに連れて行ってもらった、高級ステーキ店。奮発したんだ、と佐藤は、高級松阪牛のヒレ肉を食べながら、心中で涙を流していた。

「火浦くんすごいよね!もう中央の重賞勝っちゃったんだもん!札幌2歳!出世レースだよ!」

「まあ、な」

「福留くんは次オールカマーに乗るんでしょ!?応援してる!」

「う、うん・・・頑張るよ」

 久しぶりに関東の同期と出会ったまきなのテンションは最高潮。ちなみに、一緒に関西に行った同期は未だ重賞にも出られず、1勝でもがいていたため、声をかけ辛かった。それだけに、喜びをぶつけられる相手を、恋しく思っていたのである。

「御蔵は、どうなんだ?」

 寡黙な火浦が水を向ける。彼なりに頑張って出した一言だった。

「そうだよ、御蔵は?慶太郎さんについてったんだろ?キングジョージの話、聞かせてくれよ」

 福留は海外に興味があった。

「先輩について行ったんじゃないよ!?変な誤解は止めていただきたいな!」

 平然と言い返すまきな、『少しは照れて欲しかったなあ・・・』とさらに切ない気持ちになる佐藤。別に意識はしてないが、やはり男としては。ちょっとは意識してくれても罰は当たらないじゃないか。

「アスコット競馬場はすごかったよ!佐藤先輩には、彼女がいるみたいだし!」

「「「ええっ!?」」」

 三者三様に変な声を出す。佐藤にとっては青天の霹靂だ。

「御蔵!何言ってんだ!?」

「え、ジャンヌさん。あの子、めちゃくちゃ意識してたじゃないですか?」

「彼女は俺というか、ダービージョッキーにあこがれを持ってるだけだよ!」

「「彼女!?」」

 火浦と福留はもう興味津々。仕方なく、佐藤はジャンヌの紹介をすることになってしまった。

「16歳の見習い騎手っすか!」

「慶太郎さん、かわいいんですか?」

「ああ、まあカワイイ・・・って雄二!」

 後輩たちに押されまくりの佐藤。ジャンヌが見たら、さぞかし嘆くことだろう。

「で、彼女じゃないんすか?」

「金髪美少女が現地妻ですか?」

「いい加減にその話題から離れろ!」

 『御蔵めええ・・・』と、次はギッタンギッタンにするべく、決意を新たにする佐藤だった。

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