第43話

 板東厩舎はゆで卵トレーニングを行っている。ゆで卵を掴んで、ダイエット用のロデオマシンの上で体幹トレーニングを行うのだ。潰れなければ合格。

ウィイイイイイン!ウィイイイン!

「わっ!?はっ!?潰れる!」

 まきなも、早速トレーニングの洗礼を受けている。なんというか、

「目のやり場に困ります、先生・・・」

「そうやな・・・」

 彼女の胸に詰め込まれている、卵状の塊が揺れている。

「よーし、そろそろいいやろ!どうだ、まきな!」

「はあ、はあ・・・きついです。腹筋が」

「卵や、卵!うで卵は割れとるか!?」

「えっと、どうでしょうか・・・?」

 卵をのぞき込むまきな。殻に包まれた卵は・・・

「あ、ヒビ入ってます」

「なにぃ!?」

「マジかよ!」

 驚く板東と佐藤。

「俺の時は握りつぶしちゃったんだけどなあ・・・」

「せや、あれはもったいなかったのう」

 どうやら、このトレーニングは本当なら殻にヒビが入る程度では済まないらしい。まきなは、卵にそれなりのヒビを入れただけでやり遂げたことになる。

「若い女の子の握ったうで卵か・・・うまそうやな、一個ええか?」

「先生、セクハラです」

 師弟のボケとツッコミが冴えている。良い厩舎だと、まきなは思った。


 18歳少女の握ったゆで卵をホクホク顔で頬張る調教師と、若干、引いた眼でそれを見る弟子の騎手。そして、もう一度ゆで卵トレに挑戦するまきな。やはり色々揺れている。

「楽しいですね、これ!」

「うまいのう、うまいのう!」

「先生・・・」

 各自がひとしきり堪能し、真面目な話に移る。

「まあ、先生んとこの3頭の馬はうちの厩務員がしっかりと見るから、安心しとき。お前さんの面倒は、慶太郎が見る。まあ、襲われんようにな」

「誰がですか!」

「これ、宿舎の鍵な。送ってきた荷物も、そっちに運ばせた。後は、慶太郎が案内せえや」


 そういうことで、まきなは佐藤と一緒に美浦の騎手寮にやってきた。美浦にやってきた噂の美少女騎手だ。独身者が一気に集まる。その数、十数人。その中には、火浦と・・・

「きゃー!福留くん!」

 高知出身の新人騎手、福留雄二だ。現在17勝で、まきなと新人リーディング2位の座を巡って争っている。クレバーな騎乗で知られ、座学では主席だった。

「御蔵・・・相変わらずだなぁ・・・」

「まだ東西で別れて半年だよ!そうそう変わらないって!」

「いや、色々と、すごく・・・」

「?」

 福留の視線はある一点に行きかけ、慌てて目を逸らした。御蔵まきな、身長以外は成長中である。

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