第29話
佐藤がポー調教場に来て1週間。いまだに調教ではジャンヌの手を借りることが多いが、馬の特性はつかめてきた。ウェンリードは、ズブい。とにかく、自分のペースで走りたがる。それだけに強靭なスタミナがあり、強味となるときもあるが、レース終盤でペースが速くなる時、どうしても置いて行かれる。彼はMeiden(未勝利クラス)を勝って、2歳時には重賞にも出た大器だったが、今は伸び悩んでいた。
ジャンガスコーニュ。こちらは賢い。鞍上の手綱に機敏に答える。だが、競馬というものを知った気でいるため、騎手の意図しないところで勝負どころのスパートをかけてしまうことがあった。こちらは、まだMeidenも未出走。つまり、日本でいうところの新馬だった。
どちらも、半年は世話をされているジャンヌには懐いて信頼を寄せているが、新参の佐藤にはまだまだ。ジャンガスコーニュに至っては噛み癖まである。佐藤が油断していると、乗っていてもノータイムで噛みに来る。
呑気な4歳馬にデビューが遅れ気味の才気渙発な3歳馬。小室がこの2頭を任せたということは、キングジョージ出走=日本に帰るまでにどちらも勝たせなければいけない。佐藤は軽く頭を抱えていた。
「休みの日?」
「ハイ、慶太郎サン、サエ、ヨケレバ・・・ボルドー、ニ、イキマセンカ?」
「そうだなあ・・・」
たしかに、交替で取得する月に唯一の全休日。まだフランス語を満足に話せない彼はアパルトメンに引きこもることになるだろう。
「Granpa、ノ、ワイン、ヲ、ゴチソウシマス!」
あ、飲みたいのね・・・でも、魅力的な誘いでもあった。20になってやっと酒が飲める自分が、本場のワインを飲む機会に恵まれる。しかも、日本語のわかるガイド付きと来た。
「じゃあ、お願いしようかな・・・」
「ハイ!」
ジャンヌは満面の笑みで答えた。久々に好物のワインを飲めるからか。今までで、一番いい笑顔だった。
ガタンゴトン・・・
ポーからボルドーまでは、電車が通っている。当地の運転免許を持っていない二人は電車で移動するしかなかった。
「フランスっぽい瀟洒な電車だなあ・・・」
「ナンデスカ?」
「あー、いや、エレガント?な電車だなあって」
「エェ、ニホン、ノトハ、チガイマスネ」
「TGVナンカ、ハ、ニホン、ノデンシャト、ニテマス」
正確には、二人が乗っているのもTGVだったが、エレガントさを追求する国、フランス。それだけに、しっかりと内装がなされていた。
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