日仏を股にかける男
第16話
晴れやかな府中の空。ターフは青々と生い茂り、ダートは白く光る。舞台は府中の東京競馬場。今日は東京優駿・日本ダービーだ。その記念すべき日の第1R未勝利戦に、関西所属・御蔵まきなの姿があった。
「騎手になって初めて来たな・・・府中」
桜牧場は桜花賞もそうだが、ダービーとも縁がなかった。淀の3000メートル、菊花賞を楽勝で勝ったスーパーキーンも、府中の直線、だんだら坂に屈している。1600と2400を勝てる馬づくりを目指す桜牧場は、東京優駿の2400mと同舞台の優駿牝馬・オークスでは2勝の実績を誇る。
≪強い、強いぞ!ラクラクスイー!3馬身差圧勝!鞍上、御蔵!今日2勝目!≫
「はい、勝っちゃいました・・・」と言わんばかりの、固め打ちである。1Rに続いて3Rも勝って連勝。9Rまではしばらく乗鞍がないため、見学である。
ドドドドド!ドドドドド!
「ふう・・・」
「あ、キミ!」
「はい?」
後ろから声をかけられたまきなが振り返る。同い年くらいの騎手のようだ。
「キミ、御蔵まきなだろ?未勝利連勝した!」
「あ、そういうあなたは」
競馬学校の一年上にいた先輩を思い出す。
「佐藤先輩!」
「思い出したね?美浦と栗東じゃ、顔合わすこともなかったけど」
佐藤慶太郎。去年の新人王で、35勝を挙げた気鋭の騎手である。今年も10勝と、勝鞍を量産している。今日のダービーにも乗鞍がある。
「お久しぶりです。ご活躍は伺っています。もうすぐ50勝ですね!」
「ありがとう。キミもやるじゃないか。ラクラクスイーなんか、8番人気を持ってきてさ」
「馬が思った以上に良かっただけですよ。後は・・・」
まきながニヤリと笑う。
「女の子だと思って、楽に逃げさせてくれた関東の皆さんのおかげです」
「言うねえ・・・」
「事実ですもの。先輩もその一人でしたね?」
「そうだよ、まんまとスローで逃げさせて、さあヨーイドンだと思ったら・・・」
佐藤は頭をかいて続ける。
「絶妙だったね。クビ差届かない。ペース判断、すげえ!と思ったね」
「ふふっ、顔だけじゃありませんから」
「おっ、自慢かい?」
「自虐ですよ。莉里子さんほど美人じゃないです」
「ああ、あの女王様か・・・」
「女王様って、先輩!」
「事実だろう?あの年で八大競走4勝してるんだ、お姫様ってレベルじゃない」
「うーん・・・」
「去年暮れの香港マイル取った時なんか、実況でジャパニーズクイーン呼びだぜ?公認だよ」
莉里子は海外GⅠも合わせて、10勝以上の実績を誇る。まきなや佐藤からすれば、天上人のような存在だった。
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