第12話
「おまはんが上がってきたか!ようやっとる!勝負や!」
「おじさま、この子はマウスピースを噛んでいるから・・・」
3頭併せ馬の態勢になって、尊は嬉しそうに声を上げる。残り300メートル、もう距離はない。あと20秒もすれば全て終わりだ。
莉里子のエスティマは経済コースを悠々と進み余裕たっぷり、尊のウィークポイントは外を回した分、脚は残っていない。そして、最後方から突っ込んできたまきなのグリーンハーブと言えば・・・
「いーい馬っぷりじゃ!」
まるでもう勝ってしまったかのような風格で走っている。人気馬3頭での叩き合いに、しばし観客は見入り、そして―――
《最後は頭の上げ下げ!》
そう、またしても写真判定に持ち込まれることになった。
まきなは、ゴール板を過ぎていく瞬間、白昼夢を見ていた。自分が馬になって、骨折をする夢である。脚は赤黒く腫れ、立っていられなくなり、倒れたら接地した腹の皮膚がただれ・・・
「ハッ!」
まきなは、夢見心地から覚めると、すぐ下馬した。そして、グリーンハーブの脚を見る。
「そんな・・・」
骨が、むき出しに突き出ていた。
すぐに馬運車と獣医が駆けつけ、治療に当たるかと思われたが、到着した獣医はすぐに首を横に振り、天幕を持ってくるように指示を出した。天幕の中では、このような会話がなされた。
「中田さん、率直な意見です。この怪我では持って一月、しかも相当苦しむかと思います」
「なんでや・・・最後の直線、普通に走っとったべさ!?」
中田と呼ばれたのは、日高の総帥だ。愛馬のダービーへの片道切符が天国への片道切符になりそうなこの状況に、すっかり狼狽している。
「私にもわかりません・・・あるいは、僅かな怪我で、走れたからこその致命傷になったのかも・・・」
「ごめんなさい」
「まきなちゃん・・・」
「私が、もっとしっかりしてれば、怪我に気づいていれば・・・!」
「まきなちゃんは悪くない!悪いのは・・・誰も悪ぅはないべさ・・・」
「とにかく、安楽死を進言します。馬のためにも」
「いや、こいつは重賞を勝ったんや!あの末脚、日高に夢を見させられる!」
「なら、腐った脚を引きづらせ、苦しませますか?それもまたいいでしょう!」
「グリーン」
マキナは、3本の脚で立つグリーンティを見やった。穏やかな目をしていた。痛いだろうに、澄んだ、何も写してない目でもあった。
「・・・ありがとう、ごめんね」
10分間、審議のランプが灯っていた電光掲示板には、ウィークポイントとグリーンティの同着と発表が出されたところだった。
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