第11話

 言うやいなや、尊はムチを持ち替え、外に進路を取る。坂を急激に加速して登っていく。

「えっ、これ・・・!」

 それは、さっきのレース、シンセライザーでまきなが採ったコースをそのまま踏襲していた。だが、最後方からのまくりである。

「無理矢理過ぎる・・・!」

 だが、他に尊に採るべき道はない。ぐんぐん加速して、坂を下っていく。ワンテンポ以上遅れたまきなには、その道すら残されていなかった。

「りーりぃーこぉー!」

「げっ、おじさま!?」

「なーにがゲッ!じゃ!おまはん、いてこます!」


 好位を追走していたエスティマに、ウィークポイントが並びかけ、レースのペースは俄然、早くなっていった。莉里子も自分のことに手一杯になり、後方を封じるように展開していた馬群への統制が緩む。

「見えたっ・・・!」

 それは細い、本当に細い一本道。しかし、内ラチ沿い最内最短の経済コース。

「グリーン、行くよ!」

 左ムチを入れ、内ラチ沿いに進路を取る。馬一頭分のスペースは今しかない。

「ふっあああああ!」

 マウスピースにより、くぐもった声を上げてまきなは追い出しを始める。馬の力を信じて、ただ邪魔にならないように、薄衣一枚を乗せているかのような。そんな走りを馬にさせられるのは、古今東西、まきなのみだった。

 自分は馬の一部。騎乗中の自身をそう捉えているまきなには、ときどき、脚が四本で歩いている夢を見る時があった。その夢が現実に重なってくる。腕はなく、脚は四本。地を這うように、グイグイと前に。自分の感覚は、消滅していた。

「おじさま、いい加減にして!そろそろ隠居の時期よ!」

「うっさいわ!ダービー7度目の戴冠、ウィークでならやれる!」

「記録なら、6度達成で十分でしょ、このっ・・・!」

 言い返そうとした莉里子だが、後ろからただならぬ気配。後ろから上がってこれる、ましてや有力馬など、自分たちの他にはいないはず。思わず振り返った先には、

「ま、き、な・・・!」


 御蔵まきなと、グリーンティがいた。

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