第10話

「マキマキ!」

 返し馬に入ったまきなに、女性の声がかけられる。

「莉里子さん・・・」

 日本人女性騎手として初めて欧米での重賞も勝った、武豊莉里子だ。

「すごいね、3番人気やない!」

「いえ・・・」

「顔色悪いぞー?」

 馬を寄せてきてほっぺを正確にツンツンする、が・・・

「おや?固くない?」

「ああ、ええ、ちょっと・・・」

「武者震いするからって食いしばってるのは、歯に良くないぞー?」

「あの、マウスピース・・・」

「え?」

「私、こういう時、おしゃべりになったり歯ぎしりしちゃうから、マウスピース噛んでるんでふ・・・」

「でふって・・・ああ、滑舌悪いなって思ったらそういうわけやね、オモロイなあ」

「で、何か話ですか?」

「うん、そうなんよ。・・・オジサン、二人で倒さない?」


 莉里子の作戦はこうだ。尊のウィークポイントは間違いなく差しで来る。それを莉里子と他2頭でブロック、できるだけ外を回らせる。逃げ馬でもあるグリーンハーブは、できる限りペースを乱高下させて、差しドコロをわからなくする・・・

「坂もあるし、直線に入るまで、いえ、ラスト1ハロンまで大人しくしていてもらいましょう?」

「なるほど・・・」

 うまくハマれば、自分が勝てるかもしれない。まきなは、その計画に乗ることにした。


 レースが始まった。作戦通り、莉里子はうまく尊の進路を締めている。だが、問題が一つあった。

「ふえぇ・・・」

 肝心の逃げ馬であるはずのグリーンハーブが出遅れたのだ。確かに、まきなに力みがあった。だが、力んでたところでデビュー戦でも、今までも、スタートで後手を踏むことはなかった。これが重賞か。

「スタート失敗してもうたな」

 15頭中の最後方を進むのは、まきなと尊。そう、ウィークポイントも後手を踏んでおり、作戦はハナっから用を為さなくなっていた。その上、

「前が、見えない・・・?」

 馬群が大きく横に広がっている。まきなは内、尊は外を進む状況で、閉じ込められたのは、もはやまきなの方であった。

「何や悪ぅーいこと、考えとったんやろ?自分がハマったな」

「ううう・・・」

「まあ、ワイも大概やけどな・・・」

 尊も、外に進路を取れる。だが、それには大きく距離ロスをしなければいけなかった。そうこうしているうちに、第3カーブ、淀の坂。


「じゃあ、お先に失礼!」

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