第9話

「おっ、審議のランプが消えたわ」

 唐橋師の言葉に反応して目を向けた先に映っているのは上位入線馬の順位を示す電光掲示板だ。その掲示板に並んでいる数字は・・・

「1着、9番・・・」

「2着かー!」

 12番シンセライザーはハナ差に泣いていた。

「2着・・・」

「まあ、気を持ち直せ。次は重賞や」

「そうだぜ、気を持ち直してくれんと困るべ!」

 と、急に声をかけてきたのは日高の総帥。

「ワシゃぁ、お前さんに賭けとるんじゃ!ここで賞金を加えて、勇躍ダービーよ!」

「ダービー・・・」

 途方もなく高い壁。今の十倍の勝ち星を積み重ねても、彼女はその頂に挑戦もできないのだ。

「グリーンはいい馬じゃよ。お前さんも乗ったら、虜になる!まあ、のんびりした馬だけに、ここまで時間がかかった・・・」

「今年の馬は最高じゃ!」

 ガハハハ!と笑う総帥に、重賞で震え上がる自分。総帥への、畏敬の念を強くするまきなである。


 パーパパパパー!

 景気よく、重賞のファンファーレが鳴る。京都競馬場のメインレース、重賞の京都新聞杯GⅡだ。出走馬たちは白く輝く芦毛の誘導馬に導かれ、地下馬道から姿を表してくる。その中でも最高評価、1番人気が1番のエスティマだ。今年26歳、『近代競馬史上最高の女性騎手』との呼び声高い『武豊莉里子』の馬で、単勝オッズ1.9倍。それを追いかけるのが2番人気ウィークポイント、4000勝レジェンド『武豊尊』の騎乗だ。

 武豊一族は古来から馬に慣れ親しんできた一族であり、馬に関することなら様々な才能を発揮して、活躍してきた。馬産でも有名だが、騎手として活躍する尊と莉里子は、テレビ露出も多いスター騎手。尊は若い頃オグリキャップの手綱を取ったこともある老練の騎手で、莉里子はその弟の娘。つまり、二人は伯父姪の関係に当たる。

 1桁台オッズの最後がまきなのグリーンティだが、この馬は前走、どうにかオープンクラスに勝ち上がったものの、それまで500万下の条件戦で2敗している。4戦2勝と戦績は立派に見えても、その内実は大敗後に空き巣同然に少頭数の競馬で、それなりのタイムを出して勝利したに過ぎない。ポテンシャルは高いと見られているが、褒められた実績ではなかった。しかも、鞍上は2勝しかしていない新人騎手まきなである。

 それとは違い、武豊一族の送り出す人馬はすごい。共に無敗で500万下を勝った馬たちに、重賞3連勝中と勢いに乗る莉里子、日本競馬のレジェンド尊がスタンバイである。

「3着ならあるかも・・・っね?」


そう、自分に言い聞かせるのが精一杯だった。

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