桜牧場の御蔵まきな
第1話
一頭の馬がいた。
その馬は星の輝きを身にまとい、走ると言われた。遠く異国の地でいくつかの勝利を収め、「ジャパニーズスーパースター」と呼ばれた。自国に戻っても無限の荒野を走るかのように、勝ちを連ねた。
その馬が生まれたのは、北海道で桜がつぼみをつけた頃、それでもまだまだ冷えた夜だった。流星群が観測されたその夜に、北極星がその冬一番の輝きを見せたと言われたあの夜に。
その馬は一人の老人の執念の産物だった。
『美しい芦毛に強い芦毛を組み合わせ、白銀の馬を作り出す。そして、桜花賞を』
オグリローマンが94年に勝つまで、そして以後、芦毛馬は桜花賞を勝つことがなかった。ダービー馬では89年のウィナーズサークルにまでさかのぼれる。いくつかの毛色で生まれる馬たちの中でも芦毛馬は珍しく、そしてそれ故に強い馬は現れなかった。
その常識を打ち破ったのがオグリキャップ。地方競馬から出てダービーの出走権すらなかった馬が、日本競馬史上、最強候補のヒーローにしてチャンピオンホースとなった。オグリローマンは彼の妹である。
オグリローマンの娘に、2004年の産駒がいた。「オグリローマンの04」と呼ばれた彼女は、370キロ少々というその馬格ゆえに出走すら許されず、処分を待っていた。
そこから救い出したのが件の老人であった。芦毛馬を求めた彼は、オグリの血脈を追い求め、彼女と出会った。そして、名が与えられた。
『シロイヒカリ』―――
繁殖名とは言え、ようやく名を授かった若い母馬は、7頭の馬を生んだが、老人の意に反して、全て牡馬だった。一般に牡馬の方がセリで高価になる。しかし、桜花賞は牝馬限定競走。オグリローマン以来の桜花賞を制する芦毛馬は産み出せないまま、シロイヒカリは世を去っていった。
なぜ彼は繁殖馬としても失格の烙印を押された馬を買い求めてまで芦毛馬で桜花賞を勝ちに行ったのか。それは、オグリキャップを見た彼の孫娘の言葉だった。
『白い馬カッコいい!マキ、おじいちゃんの馬で桜花賞を勝つん!』
孫娘の名はまきな。御蔵まきなと言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます