第4話 何と言うか鶏の味が濃いと言うか
翌日、
鶏の腕の部分が欲しいんだと言うと、大将に「本当に?
「調理して食べます。美味しいんですよ」
浅葱が言うと、大将は「へぇ、まぁアサギくんが言うんなら、そうなんだろうねぇ。うちでも食ってみるかな」などと言いながら、手羽をバランで包み、がさがさと袋に入れてくれた。
さて、夕飯作りを始めよう。手羽の味付けはどうしようか。
浅葱が元の世界で良くやっていたのは、酒と砂糖や
なら使わない、だが美味しく食べられる味付けはと言うと。
手羽を手羽元と手羽先に分け、手羽先は細い先端部分を切り離して手羽中を取る。そして食べ易い様に更に縦半分に包丁を入れる。
手羽中の骨は平行に並ぶ2本で構成されているが、骨同士の間にあるのは軟骨なので、簡単に割る事が出来る。そうして出来たものは鶏スペアリブとも呼ばれる。
手羽元は下から骨に沿って包丁を入れて、半分程骨から身を外して行く。そうして
それで手羽の
まず
次に鶏スペアリブ。こちらはにんにくと
両方とも暫しそのまま置いておいて。
その間に野菜の下拵え。
湯を沸かし、まずは玉蜀黍を茹でる。茹で上がったら
さて、チューリップスタイルにした手羽元の調理だ。鍋に漬けてあるのでそのまま火に掛ける。そこに白ワインビネガーと白ワイン、砂糖、塩胡椒、オリーブオイルを加えて煮込んで行く。
野菜の
続けて野菜のドレッシング作り。今日はシンプルなもので行こう。オリーブオイルと
最後にヨーグルトなどを揉み込んでおいた鶏スペアリブ。こちらはオリーブオイルを引いたフライパンでじっくりと焼いて行く。特に皮目が香ばしくなる様に。
焼き上がる頃に冷暗庫から野菜を出し、ドレッシングと和えて器に盛り付けておく。
さて鶏スペアリブも焼き上がったので皿に盛り付ける。彩りにパセリを添えて。
チューリップはソースの味見をしてみたら大丈夫だったので、強火に掛け、水分を飛ばしてやってから器に盛る。
野菜のコールスロー風サラダ、鶏スペアリブのタンドリーチキン、チューリップのさっぱり煮込みの完成である。
出来上がった料理を見て、ロロアとカロムは「確かに骨が多いんだよな」と頷いた。
「でも、とても良い香りなのですカピ」
「ああ。旨そうだ。普段食べてる鶏肉との違いが楽しみだぜ」
そうしていつもの通り神への感謝、そしていただきますと手を合わせる。
「思い切って手で食べちゃって。骨の端の部分を持って、手羽中は骨に沿って歯で身を剥がす感じで。手羽元は普通に
浅葱は言うと、ロロアたちに見本として見せる様に、まずは鶏スペアリブのタンドリーチキンの端を、右手の親指と人差し指で
「凄いですカピ」
「成る程な」
ロロアとカロムは感心した様に頷くと、それぞれタンドリーチキンを口に入れた。そして骨だけが引き抜かれると。
「へえぇ、確かに旨いな! いつもの鶏肉も勿論旨いんだが、こう、何と言うか鶏の味が濃いと言うか。甘味とか旨味が強い感じがする」
「身が柔らかい感じもするのですカピ。脂の乗りが良い様な感じもしますのですカピ」
「味付けは当たり前に良いしな」
「はい。カレーのお味なのに柔らかさがあって、とても美味しいのですカピ」
そう。ヨーグルトを使っているので、カレーだけの味では無く、程良く角が取れている。なのにスパイシーで、しかしそう辛さは無い。とても良い塩梅に仕上がっていた。
インド料理屋などでタンドリーチキンを注文すると、
ちなみに骨無しのタンドリーチキンはチキンティッカと呼ばれる。
「骨付きは確かに無いものよりは食うのが手間だが、旨いもんなんだな。食うところが少ないからって処分してた事が本当に勿体無い」
カロムはそう言って悔しそうな表情を
「本当ですカピね。村でも食べられたら良いと思うのですカピ」
「処分って、ただ捨てていたって事?」
浅葱が聞くと、カロムが「いいや」と首を振る。
「
「そうなんだ。ちゃんと有効活用してるんだ。凄い。でもそうしたら、例えば村で食べられる様になったとしたら、肥料足りなくなっちゃったりする?」
「大丈夫だろ。鶏1羽から両腕分しか取れないんだから、そう影響は無いと思うぜ。それより村人がこれの旨さを知ったら、俺らでも買えるかどうか判らなくなるかもな」
「確かに希少部位になっちゃうかも」
それは少し残念な気がする。だが美味しい部位なので、村の人にも食べて欲しいと思うのも本音なのである。
「ま、それはまた考えるとしてと。こっちも旨そうだ」
カロムはタンドリーチキンの味になった指をぺろりと
こんもりと形作られた肉の部分を
「うわ、柔らかい!」
そうしてふた口目には、身離れの良い身は全て口の中に納まる。カロムは満足そうな表情で
浅葱もチューリップに
ああ、確かに柔らかく煮上がっている。漬け込んだ玉葱に含まれる
さっぱり煮込みとしているが、ビネガーの量は控えめなので酸味は感じない。白ワインによって甘味が足され、同じく煮込んだ事で甘味が引き出された玉葱のソース。
と言いながら、確かにビネガーは少量なのだが、しっかりと仕事はしているのだ。ただ甘いだけでは無く、深みも出ている。
「ふわふわなのですカピ!」
ロロアが嬉しそうに言いながら、骨だけになった手羽元、チューリップを
「ああ。柔らかいよな。いつもの鶏肉と全然違うぜ」
「玉葱に漬け込んだからね」
「擦り下ろした玉葱な。そんな効果があるのか」
「うん。手羽元自体はもも肉とかとそう柔らかさは変わらないんだ。でも骨からの身離れを良くしたくて漬けたんだよ。手は汚れちゃうけど食べ易いと思う」
「ああ。ほろっと離れるから食い易い。そして旨いよな。酸っぱい訳じゃ無いのにさっぱりしてると言うかさ」
「はいですカピ。カレー味の鶏肉と一緒に食べると、味のバランスが丁度良いのですカピ」
「サラダは酸味を効かせてるから、口がさっぱりすると思うよ」
汚れた手を
コールスローサラダは、本来ならマヨネーズを使ったドレッシングで和えるのだが、他の2品とのバランスを考えて、さっぱりとしたドレッシングにした。
チューリップをさっぱり煮込みにしているとは言え、鶏肉そのものの脂がしっかりとあるので、サラダまで濃くしてしまうと胸焼けを起こしてしまいそうだからだ。
「ああ、本当に口の中がさっぱりして、またカレーのも玉葱のも旨く食えそうだ」
「はいですカピ。アサギさんはお料理の腕は勿論なのですカピが、こうしたバランスも絶妙なのですカピ」
「ありがとう」
ロロアの賞賛に、浅葱は照れて小さく笑う。
浅葱にとっては久しぶりの、ロロアとカロムにとっては初めての手羽肉。浅葱たちは目一杯
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