第12話 やっぱり我が家は良いなぁ
村外れの家に到着した
「毎日帰って来ていたけど、やっぱり我が家は良いなぁ」
「そうですカピね。合宿で緊張とかした訳では無いのですカピが、やっぱり我が家が落ち着きますカピ」
「はは、まぁ気持ちは解る。ここは俺にとっても第2の家みたいなもんだからな」
「さてと、少し遅くなったけど、お昼ご飯だね」
合宿所として使用した集会所の鍵を役場に返却した後、浅葱たちは明日の昼までの食事の買い物の為に幾つかの商店に寄っていた。なので帰宅が少し昼を回ったのだ。
「そうだな。久々のパンだな」
米は昨夜に食べたが、パンは正に10日振りである。
「ではアサギさんたちがご飯を作ってくれている間、僕は研究室に入りますカピ。
「出来たら呼ぶな」
「お願いしますカピ」
そうしてロロアは研究室へ。浅葱とカロムは買い込んで来た食材を抱え、台所へと入った。
「さて、と」
まずは鮭を出す。商店で切り身にして貰っているので、バットに置いて塩を振る。臭み取りの為だ。
その間に野菜の準備。
人参は皮ごと小振りの乱切りにしておく。いんげん豆は適当な長さにカット。
鮭の臭みが抜けたので、表面に浮いた水分を
鮭の片面が焼けたら人参とともにひっくり返し、そこにいんげん豆を加える。そのままじわじわと焼いて行く。火加減は弱火から中火だ。
馬鈴薯が柔らかくなったので、木べらを巧く使って湯を
さて、鮭や人参、いんげん豆にも火が通った。人参といんげん豆に塩をしてころころと転がし、そこにバターを少量足して風味を付ける。
バターが溶けて甘い香りがしたら出来上がり。皿にバランス良く盛り付けたら。
鮭のムニエルの完成である。粉吹き芋と人参といんげん豆のバターソテーを添えて。
それを商店で購入したパンとともにいただくのだ。
「ロロア〜、ご飯だよ〜」
出来上がった食事を居間兼食堂に運び浅葱が声を掛けると、ロロアがひょこっと研究室から出て来て、いそいそと椅子に上がった。
「お腹がぺこぺこなのですカピ。美味しそうなのですカピ!」
「いつもより遅い時間のお昼ご飯だもんね。お待たせ。じゃあ食べよう!」
神に祈りを捧げ、「いただきます」と手を合わせて。
合宿で
人参は歯応えを残しつつも柔らかく仕上がっている。味付けも絶妙だ。
そこにほくほくの粉吹き芋を挟んで、口の中をさっぱりとさせて。
メインの鮭のムニエルである。ナイフを入れるとほろりと崩れる。フォークで器用に
しっとりふっくらと焼き上がっている。先に入れたバターと小麦粉のお陰で表面の香ばしさも旨味のひとつ。それが合わさりとても良い味わいだ。
「ああ〜鮭柔らかい。凄い旨い。流石アサギだ」
「本当ですカピ。全然ぱさぱさしていないのですカピ。味付けもとても良いのですカピ。アサギさんはやっぱり凄いのですカピ」
カロムとロロアもそう口にして、幸せそうに眼を細める。浅葱は「ありがとう」と少し照れた。
「そう言や、馬鈴薯も久し振りなんだよな。太る食材だからって、合宿中は食って無かったもんな」
「そうでしたカピね」
「そうだったね。10日ぐらいじゃ食べなくても困らなかったからあんまり考えて無かったよ。でも添え物を選ぶ時に選んだのは、もしかしたら無意識に食べたいって思っていたのかな」
「かもな。あれ、じゃあルーシーたちはどうなんだ? 芋とか
「うん。それはもう少し後。お米を解禁したからね。お野菜はまだ少し避けて貰う。ルーシーさんに電話してみて、体重の落ち方に寄って考えるかな。お芋とかを食べるんだったらお米を控えて欲しいから、お米好きのルーシーさん向けじゃ無いかなって。て言ってもそう長い期間じゃ無いよ。まずは10日程かな。ウォルトさんとカリーナさんの食生活にも繋がるしね」
「そうだな。ウォルトさんとカリーナの好物は知らんが、完全にルーシーに合わせて食えないのも
「ですカピね。僕は馬鈴薯も南瓜も好きですカピが、大好物と言う程では無いのですカピ。でも食べられないとなると、食べたくなってしまうのですカピ」
「解る解る。合宿中はアサギの飯が旨かったから
「そんなものなのかもね。僕もこれまで食事制限ってした事が無かったから特に意識しなかったけど。ああ、だから南瓜買ったんだ」
「まぁな。しっかり味わいたいから、トマト煮込みとかよりビネガー煮込みとか白ワイン煮込みか?」
「だったらお昼と少し被っちゃうけど、にんにくとバターでソテーしようか。塩味だけで美味しいよ」
「それは美味しそうですカピ!」
「
「良いな。あ、明日の昼の分まで食材置いておいてくれよ」
「あ、そうだよね。今日はもう買い物行かないもんね」
浅葱はたまに「うっかり」を発動するのだった。
そして10日振りのパンである。今回はロールパンにした。商店に寄った時に丁度焼き立てで、その香りにやられてしまったのだ。
何も付けずに千切って口に運ぶ。まだほぼ焼き立てのそれはほんのりと温かく、ふわふわでしっとりと口の中に甘みが広がった。
「ああ〜こうして食べると、やっぱりパン美味しいって思うなぁ」
「はいですカピ。ふわふわで美味しいですカピ」
「ああ。
浅葱たちは口々に零しながら、ロールパンを味わった。浅葱たちには減量の必要は無いので、これからもしっかりといただく事にしよう。
減量合宿終了から10日後の夜、浅葱はルーシーに電話を掛けてみた。
「調子はどうですか?」
「はい。合宿の時ほどじゃ無いですけど、少しずつ減っています。落ち方が緩やかになったのは、やっぱりお米が影響しているんでしょうか」
「そうですね。抜いてしまえばもう少し落ちるかも知れませんが、それはあまりお
「分かりました。じゃあ明日から取り入れますね。お父さんとカリーナも我慢してくれていたと思うので、美味しいのを食べて欲しいです」
通話を終えて、浅葱はひとまずほっとする。まだ停滞期は来ていない様だ。
停滞期が訪れるタイミング、そして期間は個人差がある。ルーシーは既に元の体重の5パーセントである3.5キロ以上が合宿中に落ちているので、遅かれ早かれ停滞期はやって来ると思われる。
停滞期とは、人間の防衛本能である。短期間、役30日程度の間に体重の5パーセントが減ると、身体が「
それの突破には根気良く減量行動を続けるしか無い。正確にはもうひとつ方法が無い訳では無いのだが、それはリスクが高いので出来れば実行して欲しく無いと浅葱は思っている。
停滞期に入った時、ルーシーが浅葱に連絡をして来れば、浅葱はただただ「これまで通り続けて欲しい」と説得するしか無い。
来なければ、浅葱が伝えた通り頑張ってくれている事を信じるしか無い。
さて、どうなるだろうか。
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