第2話 早速夕飯にしましょうか。もう出来ますよ

「公民館?」


 浅葱あさぎが首を傾ける横で、ロロアやカロムたちは「ああ」と頷く。


 公民館は、浅葱の世界にもあった。その規模や役割は自治体に寄るだろうが、とりあえず浅葱は関わる事があまり無かった。


 なのでどういった構造になっているのか想像が難しい。


「確かに公民館ならそこそこの人数で合宿出来るな」


「この村の公民館は、広さはあるのですカピ?」


「それなりにな。大きな村じゃ無いからそれに見合ったもんだが、俺ら3人とルーシーの家族3人なら充分過ぎるぐらいだ」


わしとクリントも入れておくれの」


「ああ、それでも充分だな。部屋は大広間ひとつなんだが、仕切りを幾つか付ける事が出来るから男女で泊まっても大丈夫だし、台所も風呂もトイレもある。基本は村、役所が仕切るもよおしなんかで使われるんだが、医療に必要だって言えば貸してくれるんじゃ無いかな」


「ほっほ、儂もそう思っての。とりあえず電話ででも聞いてみるかの。ルーシー、良いかの?」


「はい。私は大丈夫です。お父さんと妹に聞いてみますね。多分大丈夫だと思います」


「出来るだけ早く始めたいですね。ルーシーさん、合宿までがお米の食べ納めだと思ってくださいね。出来たらお野菜も食べてください。一緒に頑張りましょう!」


「は、はい!」


 浅葱の激励に、ルーシーは背筋を伸ばした。




 さて、公民館での減量強化合宿は、翌々日の夜から始まる事となった。


 アントンから話を聞いた村長は、「成る程、それは良いですね!」と二つ返事で公民館を貸し出してくれた。


 浅葱たちは家で昼食を摂り、家事などを全て片付けてから公民館に入った。早速部屋を分ける仕切りを取り付ける。浅葱たちの部屋、ルーシー家族の部屋、食堂を兼ねた共有スペースの3部屋だ。


 アントンとクリントは急患に対応する為、基本はいつも通り病院の上の家で生活をする。食事だけ公民館に取りに来る形だ。


 ルーシーの家族は仕事の後に合流し、生活を始める。そして公民館から出勤する。仕事帰りに家に寄って掃除と洗濯をし、公民館へと帰るのだ。


 浅葱たちも公民館で暮らす。昼間は家へと戻り、家事や研究などを行う。


 そうなると、合宿までする必要があるのか? と思うだろうが、ルーシーが浅葱の指示したもの以外のものを食べないかの監視と、毎日の体重管理が必要なのだ。


 ルーシーが減量をしようとして、食事を白米1皿と決めてからは、本人はそれを守っていたと言うし、食事以外にお腹が空いたら水をがぶ飲みして凌いでいたとの事なので、その意志は硬いのだろう。


 なので監視の重要性は然程さほど高いと浅葱は思っていない。肝心かんじんなのは体重管理だ。


 毎日同じ時間にはかって、その効果を確認したい。1日に500グラムでも減ればそれは充分な成果である。


 後は、少し軽い運動を取り入れようと思っている。毎日続けられる様な簡単なストレッチなど。


 食事も勿論大事なのだが、体質改善も必要だろう。少しでも代謝を良く出来たらと思っている。


 そして、減量にとても大切なのがお通じだ。便秘なんて以ての外。そうであるのと無いのとでは、天と地ほどの差があるのだ。


 それも解消したいところだ。その為に必要な食材は頭の中にある。


 さあ、そろそろ夕飯の支度の時間だ。浅葱とカロムは台所へと入る。


 公民館の台所は、厨房と言える程では無いが広さがあり、鍋やフライパン、調理器具も過不足無く揃っていた。


「ここで泊まる行事もあるからな。飯作る事もあるから、一通り揃ってると思うぜ」


「うん。充分だよ」


 浅葱は布で何重にも巻いた自前の包丁を取り出した。


 まず、玉葱たまねぎをスライスする。次にしめじの石突いしづきを落として解しておく。にんにくは微塵みじん切りにし、トマトは粗微塵あらみじん切りに。


 燻製豚ベーコンは厚めの短冊切りにしておく。


 ほうれん草は下茹でして灰汁あくを抜き、さっと水に晒して水分を絞ったら適当な大きさに切っておく。


 温まった鍋にオリーブオイルを引き、弱火でにんにくを炒める。香りが立ったら玉葱を炒め、しんなりして甘い香りがして来たら燻製豚を入れて炒めて、表面に火が通ったらしめじを加えて更に炒める。


 火が通ったら蒸し大豆を入れ、さっとオイルを回したら赤ワインを入れて、酸味が飛ぶまで煮詰め、トマトとブイヨンを加えて煮込んで行く。


 その間に、カリフラワを小房に分け、微塵切りにすると、すぐにぼろぼろになって行く。


 そうして粒状になったカリフラワをさっと茹でる。


 火から落としてざるに上げて、そのまま粗熱を取る。


 煮込みは砂糖と塩、胡椒で味を整えて。


 そうした頃に、ルーシー一家が到着し、続けてアントンとクリントが訪れた。


「減量合宿開始じゃな。よろしく頼むのう」


 アントンが鷹揚おうように言うと、ルーシーが慌てて頭を下げた。


「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


「この度は娘が世話を掛けてしまってすいませんねぇ」


 ルーシーの横にいた壮年の男性が、のんびりとした口調でそう言ってぺこりと頭を振る。こちらはルーシーの父親で、名をウォルトと言う。


 そしてウォルトをルーシーと挟んでいた妹、カリーナも「よろしくお願いします」と、素っ気無いながらも会釈をした。


「錬金術師さま、アサギくん、カロムくんも、世話になりますなぁ。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


「お願いします」


 ウォルトたちはそう言って、浅葱たちにも丁寧に礼を言った。


「いいえ、こちらこそ大事にしてしまってすいません。よろしくお願いします」


「今回は儂の勉強も兼ねておる様なものじゃからのう。特にアサギくんに世話になる事になると思うが、よろしく頼むのう」


「はい。こちらこそよろしくお願いします。では早速夕飯にしましょうか。もう出来ますよ」


 浅葱とカロムが台所に向かうと、ルーシーが「私も手伝います」と追って来た。


 さて仕上げである。極弱火に掛けておいた煮込みにほうれん草を入れて混ぜ、温める程度に火を通して。


 皿の半分にカリフラワの微塵切りを乗せ、その横に煮込みを盛る。


 カリフラワをお米に見立てた、燻製豚としめじ、大豆とほうれん草のトマト煮込みの完成だ。


「え、こんなに食べて良いんですか?」


 皿を見て、ルーシーが眼を丸くする。


「はい、大丈夫なんです。後で説明しますね」


 浅葱は言いながら、皿をトレイに乗せて行った。

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