第76話 幸福な、物語
あのあと、世界がどうなったかというと。元々劣勢に立たされていた人間側は、『聖女』という切り札をなくし、魔物側が出した和睦の提案にあっけなく頷き、戦争は終わった。
今では、人間と魔物の結婚もそう珍しくはないことになってきている、らしい。
そして、今日。婚約期間一年を終えて、私は、正式に魔王の妻になる。
どうやら、5年前も腰を痛めていたらしいアリー女史に代わり、私の教育係となったのは、サリー嬢だった。サリー嬢は、5年前も相変わらずスパルタで、私は何度死を覚悟したかはわからないが、何とか一年を乗りきった。
クリスタリアだけでなく、他国の言語やマナーも身に付いた……はずだ。
最終日には、
「これで、どこに出しても恥ずかしくないお后様ですね」
とサリー嬢に太鼓判を押してもらったので、大丈夫なはず。大丈夫だと信じたい。
ガレンは戦争が終わった後、再び臣籍に下り、正式に私の護衛騎士となった。
「美香を必ず守ります」
という言葉の通り、魔王の妻の座を狙うご令嬢方からの刺客を倒してくれた。新たな関係性をガレンとは、築けていると思う。
魔王のせいで婚期を逃していたユーリンは、ようやく魔王が結婚するので、自分も結婚できると、浮かれている。
サーラも実は幼なじみといい仲のようだ。
そして、私と魔王はというと──。
「ミカ、綺麗だ」
魔王が私の姿を見て微笑む。
「オドウェル様こそ、素敵です」
魔王の軍服姿は、それはもう様になっていた。
「今日から、私たちはまた夫婦になるが、二度と離縁なんて言わないでくれ」
と魔王は笑った。
ウェディングドレスを着るのは、これで二度目だし、結婚式も二度目だ。二度目という言葉に縁がある私だが、私から離縁を言い出すことはもうないだろう。私は、笑って頷いた。
魔王にエスコートされて、歩く。
正式な結婚式と会って、以前よりももっと豪華に、参列者もとても多い。
それに気圧されないように気を付けながら、祭壇まで歩いた。
私たちは、すでに一度誓いの言葉をすませているので、形だけだが、牧師の前で誓いをたてる。
「輪廻が終わるまで、互いを愛し続けることを誓いますか?」
この世界でも、輪廻転生が信じられているらしい。一説によると、結婚の証が魂に刻まれるのは、再び巡りあったときにお互いがわかるようにするためなんだって。
「誓います」
魔王とそろって、誓う。
「では、誓いの口づけを」
魔王の耳を見ると、朱に染まっていた。誓いのキスは二度目だというのに、慣れない魔王を愛おしく思う。優しく、ベールが上げられ、キスされる。
そして、たくさんのひとに祝福されながら、私たちは正式な夫婦になった。
それから私たちはとても幸せに──
「おかーさま、なにかいてるの?」
可愛い娘であるリアが、後ろから飛び付いてきた。
「お母様とお父様ののろけ話よ」
日記を書くのを中断して、リアにこれまでかいたのろけの一部をリアに読み聞かせる。
すると、今日の執務を終えたオドウェルが、部屋に入ってきた。
「おかーさまは、今しあわせ?」
尋ねてきたリアの頭を撫でながら、答える。
「ええ、幸せよ」
私は、幸せを噛み締めながら、夫と娘を抱き締めた。
──これは、聖女を騙った罪で、処刑された少女の幸福な二度目の生の物語だ。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる 夕立悠理 @yurie
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます