第41話 自由時間
うーん、と大きく伸びをする。この世界に再び来て、1日と経っていないの昨日はぐっすり眠れた。自分の神経の太さに若干呆れてしまうが、適応力があると前向きに捉えることにする。
「今日は何があるんだろう?」
昨日の一次選抜は、パーティーで行われたが、二次選抜はどのようにして行われるのだろう。
私付きのメイドに尋ねてみたが、メイドも何が行われるのか、知らないらしい。
朝食後、一次選抜に残った50名は、集められた。ユーリンによると、今日は本当に自由行動らしい。昨日のように、抜き打ちのテストでは断じてないと、ユーリンは言った。
てっきり今日は何か行われると思っていたので拍子抜けだ。何でもしていいと言われると、逆に困る。とりあえず、図書室にでもいって、本を借りることにした。
「相変わらず、すごいなぁ」
蔵書量に圧倒されつつ、面白そうな本を探す。そういえば、人間と魔物の戦争が、どうして、カスアン神対人間と魔物の戦争になったのだろう。歴史書を探せば書いてあるだろうか。
歴史書を探すことにした。
「……ええっと、歴史のコーナーは」
確か、こっちだったはず。と、ラベルを見ながら、歩いていると、誰かにぶつかった。
「申し訳──」
ありません、と謝ろうとしたところで、言葉につまる。ぶつかった、相手はガレンだった。また、背が少し伸びただろうか。より、精悍な顔立ちに磨きがかかっている。ガレンに、美香だと伝えようかと迷ったが、顔が変わってしまったので、信じられないだろうと思い、やめておく。
「こちらこそすみません。……私の顔になにか?」
「すみません。知り合いに似ていたもので」
ガレンはまだクリスタリアに滞在していたのか。今はどんな仕事をしているのだろう。そう思っていると、
「友好大使殿、こちらにいらっしゃったのですか」
と、魔物の青年に連れられて、いってしまった。
──友好大使。ガレンは、アストリアとクリスタリアをつなぐかけ橋として、働いているのか。ガレンをクリスタリアに連れてきたのは無理矢理だったけれど、意味はあったのかもしれない。
そのことを嬉しく思いながら、本を探した。
■ □ ■
「友好大使殿、どうされました?」
振り返った私を不思議そうに、青年が問いかける。
「いえ、何でもありません」
首を降って先に進む。
「……まさか、ね」
先ほどぶつかった彼女の声が、美香に似ていたなど、何を考えているのだろうか。……自分でも、どうかしているとわかっている。もう5年も経つというのに、未だに彼女の影を振りきれていない自分の未熟さに苦笑する。
もう一度、美香に好かれたいと思った。けれど、その努力をする前に、彼女は元の世界へと帰ってしまったのだ。
もし、また、会えるというなら、二度と過ちは起こさない。美香を決して手放しはしないと思うのに。
せめて、彼女が望んだ、『クリスタリア』を見て欲しいという願いは叶えようと、この職についたが、それは日々彼女を思い出す結果となった。
やはり、私には向いていなかったかもしれないな、なんて思いながら、足を動かした。
■ □ ■
「近代史のコーナーだ」
5年間のことが書かれているなら、この辺りだろう。適当に何冊か本を見繕って、部屋に戻る。
ぱらぱらと、ページをめくり、目的の部分を探す。
「あった」
そこに書かれていた部分を要約するとこうだ。聖女が捕らえられてから、天界からカスアン神が降りてきて、人間と魔物の戦争に人間側として干渉するようになった。最初こそ創造神の助けに喜んだ人間側は、だんだんと幅を利かせるカスアンが鬱陶しくなってきたらしい。そこからは、魔物側の打診で、二つの種族でカスアンを打倒することが決まったが、完全には倒せず、封印することになったようだ。
「へぇ……」
昨日の敵は今日の友というやつだろうか。でも、人間と魔物の関係は、危ういままだ。そこで、魔王の花嫁を人間から、ということなのだろうけれど。
そんなことを考えていると、夜になっていた。
ごろん、とベッドに横たわる。
眠気は、すぐにやって来た。
通学路を歩いていると、
──だ……
誰かの呻き声がする。疑問に思って後ろを振り返ると、
──どこにいる……!
血走った目と目が合った気がして、慌ててがばりと体を起こす。
「夢か、」
窓を見ると、雨が降っていた。だから、夢見が悪かったのかもしれない。
夜中なので、音を立てないように部屋から抜け出す。
──と、誰かの歌声が聞こえた。もしかして、魔王だろうか?だったら、選抜に残る手間も省けるのだけど。なんて思いながら、歌声を辿ると、そこにいたのは、オドだった。
「オド、さん?」
私が呼ぶと、オドは振り返った。一瞬驚いた顔をした後、柔らかく瞳を細めた。
「ミラ。また会えたな」
オドとしばらく世間話をした後、夢見が悪かったのだと言うと、オドは小さな壺をくれた。
「では、これを」
「これは?」
壺に入っているのは、月下氷人を乾燥させたものだった。どうやら、よく眠れる効果があるらしい。これを私がもらうと、今度はオドの夢見が悪くなってしまうのでは?と心配したが、オドは笑って、
「私は、もう必要ないから大丈夫だ」
そういうから、思わず、その言葉に甘えて受け取ってしまった。
お礼を言ってオドと別れる。部屋に戻って、香りをかぐと、魔王がよく纏っていた香りがした。
この香り好きだな、安心する。
枕元に小さな壺をおいて、眠りにつく。今度は、良い夢を見られそうだった。
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