第40話 一次選抜
俺はため息をつく。
「また、兄上が気に入るような方はいらっしゃいませんでしたね」
「そうだな……」
頷く兄上の顔はどこか、遠い目をしていた。大方、彼女たちの髪色に巫女殿を思い出したのだろう。
「そんなに巫女殿が好きなら、送り出さずに、泣いてすがって引き留めればよろしかったのでは?」
「ばっ……!私が彼女に抱いていたのは、友情であって、恋情ではない!それに、彼女の幸せはこの世界ではなく、元の世界にある」
兄上は、5年もたって、まだ、自分の初恋に気づいていないらしい。そんな兄上が果たして、人間の女性を見初められるのだろうか。俺は、また一つため息をついた。
■ □ ■
再度鏡を見たが、私の顔はやはりものすごく不細工だった。
「……なんで?」
以前召喚されたときは、見た目は変わらなかったはずだ。今回も手足や髪は以前と変わらないように思える。変わったのは、顔だけのようだ。声も変わっていない。
何故かはわからないが、私に元の姿に戻る魔法は使えないので、このままの姿で過ごさなければならない。
「……困ったなぁ」
魔王の元に行く自分を想像してみる。友だと名乗る見知らぬ人間の女。怪しい。それだけでも、怪しいのに、見知らぬ女は自分を巫女だといっている。怪しすぎて、捕まるのではなかろうか。
というか、そもそも、魔王の花嫁選抜って、どうやって行われるのだろう。魔王に会う前に予め、礼儀作法などで、ふるい落とされるようなことがあるのだろうか。それだったら、ユーリンに失礼な態度をとった私はアウトだろうけど……。
ドレスに着替え終わったあと、今日城に来た女性たちは全員、ホールへと集められた。
「本日は遠路はるばるよくご足労いただいた。ついては、もてなしのパーティーを開くので、今宵は存分に楽しんでほしい」
ユーリンは、そう言うと去っていった。
ホールには、美味しそうな料理がたくさん並んでいる。
私も一口頂こうとしたのだが、私の顔に突き刺さる視線が気になり、結局食べるのは断念した。
美味しそうなのに勿体ない。恨めしく思いながら、視線から逃れるために、中庭にでる。
中庭は、魔法でライトアップされており、薔薇が美しく咲き誇っている。この薔薇も魔王が育てたのだろうか。
そんなことを考えながら、薔薇を眺めていると、
「……カ?」
名前を呼ばれた気がして、振り返る。
振り返ると、そこには魔物の黒髪の青年が立っていた。女性だけでなく、男性も黒髪とは。この世界では、本当に黒髪が流行っているらしい。
青年は、私の顔を見て、すまなさそうに謝った。
「すまない。貴方の後ろ姿が、私の知り合いに似ていたものだから」
「いいえ、お気になさらず」
「……ここにいるはずもない友に、貴方が似て見えた。貴方は、どうしてここに?人間の女性は、パーティーの真っ最中では?」
「私は、あのような華やかな場は苦手なので……」
半分本当で、半分嘘だ。華やかな場はあまり得意ではないが、本当は自分の顔に突き刺さる視線が痛くてでてきたとは、私の顔を見ても特に何も思っていなさそうな青年を前にして、言うことは憚られた。
「そうか、私と一緒だな」
そういって、青年は微笑んだ。優しい、笑みだった。
「それに、とても綺麗な薔薇が咲いていたので」
「……この薔薇は私が育てたんだ」
「庭師の方なのですか?」
流石に、魔王の城にある植物全て魔王が育てているわけではないのか。
「……そんなところだ。ところで、貴方の名前は何という?」
「私は……」
美香は、巫女の名前だと広まっているようだし、美香というと怪しまれるだろう。ユーリンにも言った、ミラという名前を通す。
「良い名だ。……私の名前はオドという。私はもうそろそろ仕事だから行くが、ミラ、また会えたらいいな」
「ええ、ご縁があれば、また」
そういうと、青年は去っていってしまった。でも、庭師の仕事って夜もあるのか?と思ったが、月下氷人は夜にしか咲かない花だったことを思いだし、納得した。そういう花の世話をしにいくのだろう。
「……月下氷人、か」
──魔王は今頃どうしているだろう?
やっぱり仕事に追われているのだろうか。ちゃんと眠れているといいのだけれど。
パーティーの間、そんなことを考えながら、過ごした。
■ □ ■
パーティーの終盤、再びユーリンはホールに現れた。
「これより、この度の魔王陛下の花嫁候補の一次選抜の結果を発表する!」
「一次選抜?」
「ただのパーティーではなかったの?」
「私たちを、どこかで見ていたとか?」
周囲が一気にざわめきだすが、ユーリンの
「静粛に」
の言葉で、静かになる。
「この度、一次選抜を突破したのは50名。その者の名を読み上げる。アンナ、イレーネ、エマ、オーラ、カサラ……」
次々に、女性の名が読み上げられていく。もう45人を越えたが、未だに私の名前は呼ばれない。巫女の力を失い、顔も変わってしまった今、魔王に会えるとしたら、この花嫁候補に残ることぐらいしか方法はないが……。
「ハンナ、ヒカリ、フレーネ」
もし、パーティーでのマナーを見ていたのだとしたら、私はほぼ中庭にいたし、だめかもしれない。祈るようにして、あと二人名前を読み上げられるのを待つ。
「マリア……」
どうしたのだろうか?最後の一人を読み上げる前に、ユーリンは顔をしかめた。そして、もう一度紙に目を落とし、ため息をつきながら、最後の一人を読み上げる。
「…………ミラ」
何でかは、わからないけど、やったー!これで、魔王に会える確率が高まったぞ。
「以上の者は、客室へ案内するので、係に従うように。他の者は、今から家へ直接送らせていただく」
私の元へ、メイドが来て、客室へと案内してくれた。
客室の造りは、以前、魔王城でお世話になった部屋と同じだった。
そのことを懐かしく思いながら、眠りについた。
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