第14話 魔王の運命

現れたユーリンに日頃の感謝を伝えるにはどうすればよいか相談すると、ユーリンは、少し悩んだ後に提案した。

「巫女は舞ができるという。舞をすれば、兄上たちは喜ばれるのでは?」

巫女がする舞──神楽のことだろうか。でも、残念ながら、私は、神楽を踊れない。そう言うと、ユーリンは首を降った。


 「いえ、神楽ではなく。確か、巫女の世界に伝わるという踊りが、あったはずだ」

全く心当たりがない。私ができるのは、踊りどころか、小学生の夏休みにお菓子目当てで毎日通ったラジオ体操ぐらいだ。


 「……その、らじお?体操?でよいのでは? 貴方の国の踊りなら兄上たちも知らないだろうし、きっと、喜ばれるだろう」

いいのかなぁ、それで。何だか釈然としない思いを抱えながら頷くと、ユーリンは笑った。


 「何はともあれ、兄上と仲良くなさっているようで何よりだ」

ユーリンの用件はどうやら、私と魔王の関係性の確認らしい。全く、魔王の弟は過保護である。


 「ユーリン、そういえば、魔王──陛下の運命というのは、何ですか?」

ユーリンは初対面の時に、魔王の運命を連れてきたとか、言っていた気がする。そして、この前読みかけていた、『巫女と聖女』にも書いてあった。


 「それは、この国に伝わるおとぎ話から来ているのです。運命とは──」

ユーリンが言いかけたところで邪魔が入る。


 「ご歓談の途中失礼します。ミカ様、陛下がお見えになられましたが、いかがなさいますか?」

魔王を通してもらう。

 すると、ユーリンはげっ、といって顔をしかめた。

「巫女、こちらにユーリンが来ていないだろうか」

ユーリンは素早い動きで、窓から脱出しようと試みたが、残念ながら魔王に見つかった。


 「すまない、愚弟が邪魔をした。ユーリン、仕事に戻るぞ」

魔王はユーリンを引きずりながら帰っていった。


 仕方がないので、サーラに魔王の運命について尋ねる。

「ああ、そのことでしたら、劇的な恋に落ちた魔王陛下と、巫女様がおられたのですよ。それ以来、巫女様と魔王陛下は不思議な縁で繋がっているのです」

話を聞くと、どうやら現れる巫女は毎回、魔王と結婚したらしい。──もしかして、魔王とくっついた人を巫女というのでは?


 「いいえ、ミカ様を除いて、巫女様はここ数百年の間現れておりません」

魔王の母親は、普通の魔物だったらしい。

「そうなんだ」


 そういえば、サーラと魔王のお礼何にしよう。ラジオ体操は流石に違うと思うので、また何か考えなければならない。いっそのこと、サーラに直接聞いてみることにする。


 「お礼なんて滅相もございません」

首を降るサーラに食い下がると、サーラは困った顔をしたあと、急に表情が明るくなった。

「じゃあ、あのもしよろしければ、ミカ様のお髪を私に結わせてもらえませんか?」

「そんなことをしたら、サーラが余計に疲れてしまわない?」

「いいえ、実はずっと、ミカ様の綺麗なお髪に触れてみたかったのです」


 そんなことでいいのなら、と了承すると、サーラは瞳をキラキラと輝かせて、ありがとうございます、といったあと、すぐに髪を結い始めた。


 鏡を見ると、サーラの素早い動きで、どんどん髪が整えられていく。5分もたたないうちに、私の髪はすごいことになっていた。サーラは仕上げにと生花を私の髪に飾るとそれはもう名残惜しそうに髪から手を離した。


 私の語彙力がなくて表現できないが、完成した髪形はまるでお姫様みたいな髪形だ。


 「ありがとう。こんな素敵な髪形初めて。……毎日サーラに髪を整えて欲しいくらい」

「毎日してもよろしいのですか!? 実はもっと試してみたい髪形がありまして」

サーラの迫力に思わず頷くと、サーラはとてもキラキラした笑顔でお礼をいった。


 お礼をするはずが、かえって手間になってないか心配だが、サーラが喜んでくれたのでよしとする。


 さて、魔王へのお礼は何にしよう。

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