第13話 追跡
美香が、隠し通路を使って城外へでたとわかったあと、城下町を探したが、一向に見つかる気配がない。黒髪の少女を見たという、目撃情報さえ、皆無だった。
「──どこにいったのです、美香」
美香、と呼ぶと真っ直ぐに微笑んでくれた瞳が傍にない。
それは私自身をとても落ち着かなくさせた。まるで前に戻ったようで。
けれど、本当に前と今は違うのだろうか? 美香は教えたことのない、隠し通路の場所を知っていた。他の者が教えた可能性も否定できないが、そうできる者はかなり限られる。
美香の気配を追うように、隠し通路へ入り、美香の足跡を辿る。やはり、足跡は隠し通路が終わる丘の上で途絶えていた。
ふと、丘の近くの森へ目を向ける。
あれは前の話だったか。
「──この奥にあるクレアの実は染料になるんだ」
「ええ、青に染まるのですよ」
「その実を使ったら、ガレンと同じ髪になる?」
無邪気にそう尋ねる彼女に首を降る。
「せっかく綺麗な黒髪なのですから、そんなことおっしゃらないでください」
そう言うと、美香は口を尖らせた。ガレンの髪、すごく好きなんだけどな、と言いながら、背伸びをして、優しく触れる。
──その手つきに妙なくすぐったさと心地よさを感じて目を閉じた。
「まさか、クレアの実をとりに奥へ──?」
この森は魔物との国境になっており、それなりに入り組んでいて、とても危険だ。猛獣だってでるし、魔物もうろついているかもしれない。
……少しでもその可能性があるのならば。私は、剣を手にして、森へと踏み込んだ。
■ □ ■
大きく伸びをして起き上がる。昨日は、あのあと夢も見ないほどぐっすり眠れた。魔王の子守唄のお陰だろう。
何というか、この国に来て、私すごく甘やかされている。それは、アストリアでも不便な思いはしなかったけど、それ以上だ。この世界の文字が勉強したいといった、望みもそうだし、昨日なんか一国の王様相手に子守唄を要求し、歌ってもらった。
「すごく、わがままじゃない?」
思い返して恥ずかしくなる。幼子じゃないのに。
でも、そんな要求を受け入れられるのも、私が私であるから、ではなく、巫女、だからだろう。
だから、あんまり増長しないように気を付けないとなぁ、と思いながら、今日の計画を立てる。確か、教師から宿題が出ていた。それに、いつもお世話になっているサーラや魔王に何かお礼になるようなことがしたい。さて、何がいいだろうか?
と、扉が控えめにノックされる。
「はい」
「ユーリン様がお見えです。いかがなさいますか?」
慌てて身支度を整えて、通してもらう。
そうだ、ユーリンに何をしたらいいか、相談してみよう。
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