第20話 デートのその後
「おまえ、あの首飾りさっき露店で買ったやつだろう?」
勇者と別れた後、二人で人込みに紛れつつ、魔王が言う。
「見ていたの? まあ他に手頃なものがなかったからね」
「てきとうすぎるだろう」
「実を言うと、魔法少女さんの占いでラッキーアイテムが首飾りだったのよ。それを思い出してつけていたのだけど、役に立って良かったわ。勢いで買ったけど、あまりセンスがいいものではなかったから正直な話いらなかったのよね」
満足げに姫が言うと、魔王は「酷い話だ」と呆れた。
「多分、勇者が助けに来るとき、あの首飾りつけてくるわよ」
その光景を想像して、姫は今からにやにやと笑う。いい性格をしている、と魔王もつられて笑う。
「いや、あんなもの戦闘の邪魔になるからいつまでもつけないだろう。奴は根っからの商人だし、二束三文で売ってしまうんじゃあないか?」
「賭ける?」
「いいぞ」
二人は不敵な笑みを浮かべ、見つめ合う。
「まあ、でも結果が出るのはだいぶ先ね。それまでにお互い罰ゲームでも考えておきましょう」
「わかった。罰ゲームが果たせるかわからんが……」
言われて姫は気付く。勇者が来たときは、それは勇者と魔王が決着を付ける時だ。勇者が魔王を倒せば罰ゲームどころの話ではなくなるし、魔王が勇者を倒せば姫は魔王に嫁入りが確定する。不意にこの生活の終わりを意識させられ、姫は複雑な気持ちになる。思った以上に魔王との生活に馴染んでしまっていることがショックだった。しかし、帰りたいという気持ちも変わらずある。どちらに転んでも悪くない人生が待っていそうだったが、その運命を自分で決められないことにもどかしさを感じていた。
「まあ、いっか」
呟き、姫は前を向く。今それを考えても仕方がない。この話はこれまでと、話題を切り替えることにした。
「それにしても魔法少女の占い、凄いわね」
「確かに。姫と勇者が顔合わせするだけのつもりだったが、今の勇者の実力を見られるとは思わなかったぞ」
「なんだか私との絆よりも魔王との絆の方が深まってそうなのが癪だけど」
絆に対しては大して重要視していなかったのだろうか、そういう姫の機嫌は悪くなかった。
「最後にはしっかり意識させられていたのだからいいじゃあないか」
「そうね。約束通り正体は明かさなかったわよ」
「ばればれだったけどな」
「そうね」
僅かな沈黙の後、二人は声を漏らさないように笑い出す。
「まさか本当に言うとは……」
「あの瞬間、ちょっと自分が恐ろしかったわ」
『まさか、あなたは……』
てきとうに予想した会話が本当に実現するとはある意味予想外で、それを思い出すと笑いがこみ上げてくる。
「思わず吹き出しそうだったけど、後ろ姿で助かったわ」
にやけた口元をなんとか整えつつ、姫が言う。こらえた分だけ、僅かに顔が赤くなっているのはご愛嬌だ。
「縁を繋ぐのは勿論、勇者に私を意識させて、更に時間がないと急かす。完璧な流れだったわね」
「おい、最後のは完璧だったのか?」
「予定通りだったじゃあない?」
「あのずさんな予定を正確に遂行してどうする? まあ、こっちもどさくさ紛れでこの街に居辛くさせられたから、良しとしよう」
正直勇者の歩みが遅いのは、この街が商業の中心地だからだ。どこかに行ってはこの街に戻ってきて、各地の特産品等を売り捌いていれば探索も進まないのは当然だろう。商売よりも旅と戦闘を重視してくれなければ困る。
「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「もういいのか? メインの買い物は午前中しかできなかったじゃあないか」
「もうバッグには入らないでしょう? それに、このまま街をぶらついていて、勇者とばったり会うようなことになったら、気まずくて仕方がないわ」
「確かにしょうがないか……」
帰ると言っているのに、魔王の表情は思ったより晴れていない。
「何? 私とのデートが名残惜しいの?」
「そうだな。思ったより楽しかった」
素直に返されて、姫は先ほどとは違う意味で顔が赤くなるのを感じた。なんとか顔を見られないように姫は小走りで魔王の前を行く。
「ま、また来ればいいじゃあない? どうせ勇者が来るまでは暇なんだし」
顔を背けたままで姫は言った。魔王はそうだな、とだけ答える。
「それじゃあ、帰りましょうか。ここじゃあゲートは開けないんだし、街を出るまでがデートよ」
火照った顔も収まり、姫は笑顔で振り返り、そう言った。
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