第3話 言葉にする勇気を胸に

 対人関係で何かが起きて、自分に理由がなくても反論しなければ揉め事が大きくならなくて済むから意見を言わないでいればいいと。

 そうすれば周りも楽しく過ごせるだろうと、いつからそういう風に言葉にする事を止めてしまったんだろうと考える。

 黙ってなあなあでやり過ごしていく内に、私という人間は私に付属する諸々(例えば考えや性格、行動等)を他人から蔑ろにされている気がしてきて。

 それは被害妄想かもしれないし気のせいかもしれないけれども、たまに「ああ、そこまで言われる理由なんてないのになぁ」という事がある。

 反論したいと思う事があっても長年そうやって過ごしてきたからか直ぐに変わる事はできなくて、結果モヤモヤを抱えたまま成長してしまった。けれどもそんな私に対して良くしてくれる存在もいて――。


「誰にでも優しくする必要はねぇだろ。理不尽に対しては嫌なら嫌って言うべきだし、間違いだって言ってやりゃあ良いんだ」

 その存在、幼馴染の郁はそう言いながら紙パックの紅茶を飲んでいる。私はその言葉に少しだけ唸りながらいちごオレを一口だけ飲む。

「でもさぁ、周囲に嫌な思いをさせないかなって。

 本当は私だって言いたい事は色々あるけど、でもそれを相手に言って他の子がそれを聞いて板挟みになったり、色々あっても申し訳ないかなって」

「他人の事を考えすぎる所があるからなぁ、三樹みつきは。でもそれでもどうするかは第三者であるその人次第だし、あんまり優しすぎると三樹が泣く事になる。俺はそういうのはごめんだ」

 小さい頃から優しくて私の悩みとか思うところを聞いてくれる郁。

 彼には恋人がいた時期もあったから話さない時だってあったけど、相手と別れたら「思っていたのと違うって言われて別れた。だからまた話せる」なんて言って声をかけてくる。

 郁は厳しい時は厳しいけれど、それは相手を信頼してのものだ。どうでもいいと思っていたり、いつまでもウジウジしている人にそういうのは向けられる事はない。

 それを考えると私はウジウジしているタイプなんじゃないかと思うのだけど、もしかしたら頼りなさ過ぎる幼馴染だから面倒を見てくれているのかもしれない。

「ごめんね、手間のかかる幼馴染で」

「べっつに。ただ俺はお前が蔑ろにされていいなんて思わねぇし、でも相手に対して言葉にするのはお前だ。

 第三者が口を挟むなんて公平じゃねぇし……三樹は誰かに頼ってまで相手に何かを言ったり、悪い意味で利用するタイプじゃねぇからな。

 そういう自分で動くべきところは自分でってところがあっから、俺は気にかけてんだよ。真っ直ぐさがあるからな」

「郁は第三者を使うような人、好きじゃないもんね」

「まーな。……時間はかかるかもしれねぇけど、本当に我慢できなくなったら勇気を出して言ってみろ。いざとなりゃあ俺が背中を押してやっからさ」

「うん、ありがとう」

 軽く背中を叩く郁のその手の大きさと夏特有の温度とは違う、胸にくる暖かさに涙が出そうになる。

 高校二年が終われば、郁はお父さんの都合で遠くに引っ越してしまう。

 だから郁が引っ越してしまう前に、私は勇気を持って理不尽とか私の事は都合のいい人間だと思っている人に対して、はっきりと嫌だとかそういう風に言えるようになろうと思っている。

 引っ越し先で彼が私の事を心配しないように、安心して向こうで過ごせるようにしたい。そう思いながら涙を堪え、私はまたいちごオレを飲んだ。

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