一五 日暮里駅

 島村舞桜はスマホの画面に視線を落とした、約束の時間までまだ一〇分近くある。


 彼女は今、京成線日暮里駅の成田空港方面行きホームにいる。しかも端の方で大きめのマスクをして顔を隠している。桜が咲き誇るこの時期、スギ花粉も蔓延しているのでマスクをしていても目立たない。


 まぁ自分はそれほどメジャーじゃないので顔が見られても大して問題にはならないが、待ち合わせている尾崎佳奈はそうはいかない、人気が急上昇中だ。


 そんなこともあり待ち合わせの場所もひとがない場所がいい、駅の前や改札のそばは論外だ。そこで彼女はここを指定した。昼前のこの時間帯ならすいているのでわざわざホームの端まで来る人間はほとんどいない。


「舞桜さん!」


 顔を上げると、彼女と同じく大きめのマスクをしてベレー帽を被った佳奈が小走りで寄ってくる。片手を上げて振っているが、その手に包帯が巻かれていた。


「遅くなって済みません」


「ううん、まだ約束の時間前だし、そもそも急に場所を変更したんだから謝るのはこっちだよ」


 舞桜は両手を合わせて軽く頭を下げた。


「気にしないでください……

 それより、何かあったんですか?」


 本当は都内のガストに集まる予定だったのに、一時間ほど前に永遠から場所を彼女の自宅に変えて欲しいと連絡があったのだ。


「うん……

 それがね、せっちゃんが怪我をしたらしくて……」


 佳奈の顔が青くなる。


「佳奈ちゃんのせいだと決まったわけじゃないよ」


「そう……ですね……」


 舞桜は話題を変えようとした。


「それよりその手どうしたの?」


 佳奈は包帯がされた右手を身体の後ろに隠した。


「ちょっと料理中に火傷して……」


「そう、病院に行った?」


「そんな大げさな怪我じゃありません!」


「ならいいんだけど」


 ホームに電車が入ってきて二人は乗り込んだ。

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